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「いらっしゃいませー。あっ、舞田さん! お待ちしてましたよ、新作入荷してます!」
「わあ、ほんとですか! 見せてください!」
繁華街を抜け、さらに狭い路地を抜けた先にある"valite "という小さなお店が、ここ最近のお気に入りだ。挨拶もそこそこに、すっかり顔なじみになった店員さんに早速この夏の新作商品を見せてもらう。
「新しく入ってきたトップスは、これとこれ。あとこのワンピースと、ワイドパンツと、あっ、この花柄スカートもおすすめです!」
"NEW ARRIVAL"の札が掲げられた陳列棚の前に案内してもらうと、自然と頬が緩んだ。女の子らしい高めの声で商品を勧めてくれる店員さんの説明に相槌を打ちながら、頭の中で自分のクローゼットの中身を思い出す。
「このシャツ可愛い! デニムとも合うかなぁ、先月買ったサックス色の」
「ああ、あれですね! 絶対合いますよー、涼しげでいい感じ!」
「色違いもありますか? 白のトップスはいっぱい持ってるから、雰囲気違うのがいいんですけど」
「ありますあります! こちらは三色展開で、白の他にベージュとブラックがあって……」
あまり混み合わない時間帯のためか、まるで専属スタイリストのようにあれこれ説明してもらった。前に私が買った服も覚えてくれているから、相談しやすくて頼りになる。
それに、私がピンとくるものが無ければ無理に買わない客だということも分かってくれているから、「また今度にします」と言えばすんなりと引き下がってくれるところも有り難い。
「うーん、それじゃベージュにしようかな! あ、でも私が着るとちょっとおばさんくさい?」
「あははっ、まさかぁ! 舞田さんお綺麗なんだから! それに、このシャツは今年トレンドのフォルムですからね!」
本気かそうでないのかは分からないが、褒めてもらったことは確かなのでえへへと曖昧に笑っておいた。今年で二十八歳、立派なアラサー独身女だが、自分を着飾ることはこんなにも楽しい。
あんたと興味もないアクション映画を観に行くよりずっとね、と、もう連絡先も知らない元彼に心の中で毒づいた。
こうして思い出してしまうあたり、本当の意味で吹っ切れてはいないのかもしれない。でも、恋しいのはあの男ではなくて、人肌のぬくもりだ。それだけははっきりしている。
「ありがとうございましたー! またお待ちしてます! その服、たくさん着てくださいね」
「こちらこそありがとうございました。たくさん着ますよ、擦り切れるまで」
冗談交じりに返すと、愛想のいい店員さんは明るい声音で笑った。ではまた、と会釈して、買ったばかりの服が入ったショップの紙袋を左手に提げる。足取りは軽く、休日でごった返す繁華街の喧騒もどこか心地いい。
これから、静かなカフェでのんびりランチを食べて、もう何軒かお店を見て回って、コーヒーショップでひと休みして、最後にデパートのコスメ売り場を一周したら帰ろう。ああ、ついでにデパ地下で今日の夕飯を買って帰るのもいい。お給料も出たし、一カット千円のフルーツタルトも買ってしまおうか。
独身のいいところは、こうして惜しげも無く自分のためにお金を使えるところだ。まあ、給料日前日には夕飯が卵かけご飯オンリーになることもあるし、それをかっ込む時の虚しさったら言葉にできないほどだけど。
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