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「ねえ、杏子ちゃん! ちゃんと聞いてる?」
ゆさゆさと肩を揺らされ、はっと現実に戻る。ふと昔のほろ苦い記憶を思い出してしまったせいか、デート中だというのにぼうっとしていたらしい。
そんな俺を、最近出来たばかりの可愛い恋人がちょっと不満そうな顔で見つめていた。
「あ、ごめんね。聞いてなかった」
「もう、何回も聞いてるのに! このスカート、どっちの色が可愛いと思う?」
恭子さんが手にしているのは、秋らしいブラウンのスカートと、それと色違いの濃いパープルのスカートだ。
両方をよく見比べて、より彼女に似合うのはどちらか考える。うーん、と顎に手を当てながらしばし考えたのち、わくわくした様子で俺の返事を待っている彼女に答えた。
「紫かな」
「え、ほんと? 杏子ちゃんなら茶色って言うかと思った」
「うん、そっちも可愛いけど。でも、そういう色の服は持ってるでしょ? 紫はなかなか見ないから」
「確かにそうかも! じゃあ、こっちにしようかなぁ」
「いいと思うよ。さつまいもみたいで可愛い」
「……それ、ほんとに可愛い?」
怪訝そうにちょっと眉根を寄せる仕草が可愛らしい。可愛いよ、と背中を押すようにもう一度言うと、恭子さんは少し照れくさそうに笑いながらレジへと向かっていった。
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