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「恭子さん、大丈夫?」
「まあ……なんとか」
行為が終わり、二人とも動く気になる頃にはすでに外は夕焼けに染まっていた。
一息つこうか、と言って杏介くんが淹れてくれた温かいルイボスティーを飲んでいると、彼が唐突に話を切り出す。
「ねえ、恭子さん。ご両親への挨拶が済んだら、式場の見学に行かない?」
「え、もう!? き、気が早いんじゃ……」
「まあ、式はいつになるか分かんないけど、どんな感じかだけ見てみようよ。ほら、ドレスの試着とかできるとこもあるらしいし」
同じく温かいルイボスティーを飲みながら、杏介くんは目をきらきらさせて私を見つめている。
「……杏介くん、式場じゃなくてドレスが見たいんでしょ」
「あ、バレた」
いたずらっぽく笑うと、杏介くんは置いてあったスマホを手に取って、何やら色んな種類のウェディングドレスの画像を見せてくる。
ドレス選びなんてまだまだ先なのに、彼にとってはこれが一番重要なことらしい。
「恭子さん細身だから、スレンダーラインとかマーメイドラインでも似合うと思うんだ。でもやっぱり王道のAラインも捨てがたいんだよね」
「へえー、ウェディングドレスも色んな形があるんだね」
「そうだよ、だから絶対たくさん試着した方がいいって。何回も着られるもんじゃないんだし」
杏介くんは色々なデザインのドレスを私に見せては、「これはシンプルすぎる」とか「これは恭子さんのイメージと合わない」などと言いながらドレスについて熱く語っている。
最初は適当に相槌を打っていたけれど、私も彼につられてだんだんと楽しくなってきた。何回も着られるもんじゃない、という彼の言葉通り、ただ一つだけを選ぶとなると熱が入る気持ちも分かる。
「あー、楽しみだな。恭子さんのドレス姿」
「そういえば、杏介くんは何着るの?」
「……そこはさすがに、タキシード着させてよ」
半分冗談、半分本気で聞いたのだが、杏介くんは脱力した表情でそう言った。
その様子がおかしくて、私はにやつきながら彼のそばに近寄る。
「なーんだ、残念」
「残念って……それじゃ、試着だけでもしよっかなぁ。どんなのが似合うと思う?」
「うーん、どれも似合うと思うけど……私より杏子ちゃんの方が似合ってたらどうしよう」
「そしたら、二人でドレス着ようか」
くすくすと笑いあってから、どちらからともなく触れるだけのキスをする。
一緒に住んでも、結婚したとしても、彼は私にとって一番の友達で、唯一の人であることに変わりはない。彼にとって私も、そんな存在であり続けようと心の内で誓った。
その間にも、杏介くんは「お色直しはどうしよっか」なんて言いながら楽しそうに未来のことを考えている。
そんな彼と一緒に、私もこれから訪れるであろう幸せな未来を想像した。
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