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俺が慰めるから
懐かしい街並みを車の窓越しに見つめながら、私は気が抜けたように大きなため息をこぼす。
運転席に座ってハンドルを握る杏介くんは、そんな私を横目で見て「お疲れさま」と苦笑いした。
「いや、杏介くんの方こそお疲れさま。ごめんね、うちの親やっぱりうるさくて……」
「ううん、全然。可愛い娘のことなんだから、うるさくなって当たり前でしょ」
「可愛いって、もう三十手前だよ? やだなあ、過保護で恥ずかしい」
今日は、一緒に住む許可を得るために私の実家へ二人で行ってきた。ついでに「ゆくゆくは結婚するつもり」ということも伝えてきたから、母は大喜びで杏介くんと握手を交わすほどだった。ずっと私の結婚を心待ちにしていたから、母からしたら杏介くんが救世主のように思えたのだろう。
その一方で、父は何が面白くないのか最初から鉄仮面のように不機嫌な顔をしていた。最終的には母も一緒になって父を説得して、なんとか丸め込む形で了承を得てきたのだ。
「やっぱ、パーマなんかあてなきゃよかったかな。お父さん、俺の頭見るなり目ぇまん丸にしてたもん」
「ああ……田舎者だから、男の人がパーマあててるの見慣れてないんだよ」
杏介くんの言う通り、父はふんわりとパーマのかかった彼の髪型を見るなり驚いた顔をして、それだけで彼を「チャラついた奴」と勝手に判断してしまったらしい。
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