女装男子は肉食系

俺が慰めるから

　その言葉に頷くより早く、杏介くんは噛みつくようにキスをした。荒っぽく口内を犯されて、息をつく間もない。
　さすがに息が苦しくなって彼の胸を押し返すと、杏介くんははっとしたように唇を離して「ごめん」と謝ってきた。

「恭子さんがあんまり可愛いこと言うから、興奮しちゃった。ごめんね、苦しかった？」
「ううん、大丈夫、だけど……」
「お望み通り、いつもよりもっと気持ちよくしてあげるから。何も考えないで、俺に任せて」

　そう言って杏介くんは、乱れたバスローブの隙間から手を差し込んで、私の胸を撫で回した。お風呂上がりだから下着はつけておらず、彼の手のひらが直に触れて思わず声が漏れる。

「あ……っ」
「ね、舐めていい？」
「う……、うん」

　ほとんど意味を成していなかった布を取り払い、杏介くんが私の胸をそっと手で持ち上げる。そして、見せつけるように赤い舌をべろりと出したかと思うと、焦らすことなくそれを胸の尖りに押し当てた。

「ひっ、んんぅ……っ！」
「声も我慢しなくていいよ。好きなだけ出して」
「や、で、でもっ」
「声出した方が気持ちよくない？　それに俺、恭子さんの声いっぱい聞きたいし。だから、お願い」

　お願い、なんて言われてしまったら頷くほかなくて、私は声を押し殺すことを諦めた。きゅっと引き結んでいた唇を開けると、杏介くんがもう一度私の胸の先端を舐め上げて、さっきよりもずっといやらしい喘ぎ声が漏れ出てくる。

「あ、あああっ……！　っひ、あんっ」
「そう、いい子だね。えらいえらい」
「んっ、あ、杏介くんっ、そんな、舐めちゃ……っ」
「気持ちいいでしょ？　いいんだよ、もっと感じて」
「あ、ひあぁっ！　あっ、あ！　……ひ、きもち、い……っ」

　感じる場所だけをひたすらに攻められ、私は恥じらいも忘れてその快感に浸った。
　いつもは焦らしながらゆっくりと私を追い詰めてくるのに、今日の杏介くんは最初から強い快感を与えてくれる。それに普段なら、「どこ舐めてほしいの？」だとか「乳首、もう勃ってるよ」だとか、わざといやらしい台詞を言って私の反応を楽しんでいるのに、今日はそれもない。
　でも、その理由を彼に尋ねるほどの余裕は無くて、私は喘ぎながら縋るように柔らかな彼の髪をくしゃりと握った。

「んっ、ん、ふあっ、あああっ」
「あー、可愛い……ずーっと舐めてたいけど、そろそろこっちにしよっか」

　こっち、と言いながら杏介くんが手を伸ばしたのは、彼に触れられることを待ちわびてすでに濡れそぼっている秘所だった。
　杏介くんの指がそっと割れ目をなぞると、意図せず身体が強張った。彼に触れられるのを期待している自分がいる反面、これからどれほどの快感を与えられるのかを想像して、恐怖にも似た感情が押し寄せてくる。
　普段だって行為のときは最後まで意識を保っていられないくらいなのに、今日は自分から「好きにして」と彼にねだってしまったのだ。あっさりと一度きりの行為で終わらせてくれる可能性は無いに等しい。
　きっと明日の朝は足腰が立たなくて、「あんなこと言うんじゃなかった」と後悔している自分が容易に想像できた。