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俺が慰めるから。
その言葉で、今日の杏介くんがいつも以上に優しくしてくれる理由を私はようやく理解した。
「杏介くん……ありがとう」
「え?」
「慰めて、くれてるんだよね? 私がお父さんにひどいこと言っちゃったって、落ち込んでたから」
杏介くんが少し目を剥く。しかし、すぐに「ばれたか」といたずらっぽく笑うと、じゃれあうように頬に何度も啄ばむように口づけた。
「なんで分かったの?」
「だって、杏介くんの好きにしてって言ったのに、すっごい優しいんだもん。私、明日の朝足腰立たなくなるの覚悟してたのに」
「まあ、正直揺らいだけどね。でも、恭子さんのこと慰めるのが先かなぁと思ってさ。俺の気が済むまで抱き潰すのは、後でいくらでもできるし」
「……最後の一言が余計だなぁ」
わざとらしく顔をしかめると、珍しく杏介くんがけらけらと声を出して笑った。
それにつられて笑うと、ようやく気持ちを切り替えられたような気がした。私がここでいくら落ち込もうがお父さんを傷つけてしまったことは事実なのだから、それならばこれから自分はどうするべきなのか前向きに考える方がずっといい。
「杏介くん。明日、もう一回お父さんに会いに行ってもいい?」
「うん、もちろん」
「今度は、ケンカしないでちゃんと言うから。……私は杏介くんが好きだから、絶対にこの人と結婚したいんだって」
はっきりと宣言すると、杏介くんはまた驚いたように目を剥いて、それから悔しそうに唇を噛んだ。心なしか頬が少し赤いようにも見える。
「……恭子さん、それはずるい。どきどきしちゃったじゃん」
「え……ほんと?」
「ほんとだよ。あーもう、頑張って余裕ぶってたのに……」
本当に悔しそうな顔をする杏介くんがおかしくて、私は落ち込んでいたことも忘れて思い切り笑った。
笑いすぎ、とむくれながら杏介くんが私の頬をつねる。でも、頬をつねるその手すら優しくて、彼の想いが嬉しくて胸がいっぱいになった。
「ね、杏介くん。続き、して?」
「……いい、けど」
「今日は、杏介くんの優しさに甘えたいの。思いっきり甘やかして」
言いながら両腕を広げると、まだむくれたままの杏介くんが勢いよく抱きついてくる。そのまま再びベッドに組み敷かれて、濡れきった陰部に彼の熱い滾りが押し当てられた。
「あ……っ」
「好きだよ、恭子さん。大好き」
何度も愛の言葉を囁きながら、杏介くんがじわじわと自身を埋め込んでいく。すっかり彼のものに馴染んだそこは、嬉し涙を流すかのようにたっぷりと蜜を溢れさせていた。
「今日は、優しくするけど……次は、覚悟しといてね」
「う、ん……っ」
「はあ……結局、恭子さんには敵わないんだよなぁ」
そんな彼のぼやきに笑うと、ゆっくりと律動が開始される。力強く杏介くんの体を抱きしめながら、今はその熱と優しさに浸りきることにした。
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