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俺は俺だから
引っ越しを済ませ、私と杏介くんが一緒に住み始めたのは七月に入ってからのことだった。
なんだかんだありつつ私の両親や杏介くんの両親からの承諾も得られて、私たちは晴れて婚約中の仲になったのだが、だからといって急激に二人の関係が変わるわけでもない。
同棲し始めてお互いの嫌な部分が見えてきたらどうしよう、という不安もあったけれど、今のところは特にこれといった問題は無いし、むしろ一人暮らしをしていた頃よりも心に余裕のある暮らしをしている。
杏介くんは当初の提案通り朝食とお弁当を作ってくれているし、掃除や洗濯も一通りこなせるから私の負担ばかりが増えることもない。逆に、ゴミの分別や洗剤の補充といった細かなことまでほとんど彼が片付けてしまうから、彼に負担をかけまいと一人の時よりも進んで面倒な家事をするようになった気がする。
引っ越しの後片付けも済み、だんだんと二人の生活にも慣れ始めたので、今日は久しぶりに街へ買い物に繰り出した。
今日の杏介くんは、膝下丈のシックなタイトスカートとボートネックの半袖チュニックに身を包んでいる。つまり"杏子ちゃんモード"だから、メイクだってばっちりだ。
「杏子ちゃん、あとは何買う?」
「うーん、あたしはもういいかな。結構買っちゃったし」
「あはは、確かに! 久しぶりだから、私もつい買いすぎちゃった」
「もう秋服も出始めてたしね。可愛いのいっぱいあって楽しかったぁ」
片手では持ちきれないほどのショップバッグを軽く持ちあげて、杏介くんが本当に楽しそうに笑った。かくいう私も色々なお店のショップバッグをぶら下げながら、ほんとだねぇと相槌を打つ。
「どうする、もう帰る?」
「そうだなぁ……あ、恭子さんが疲れてなければカフェ寄っていかない? この先にね、SNS映えするって人気のお店があるんだ」
「へー、行ってみたい! SNS映えって、ラテアート的な?」
「ううん、そこはクリームソーダが有名なんだよ。カラフルで可愛いんだって」
ファッション以外の流行にも目敏い杏介くんらしい提案だ。私自身は面倒でSNSには手を付けていないのだが、杏介くんと一緒にいると何もしなくても自然と流行に乗っていられる気がする。
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