可愛いのは

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可愛いのは

「あー、どうしよう! 服が決まらないっ……!」  奮発して買った大きな姿見の前で、私は髪型が乱れるのも構わず頭を抱えた。  周囲には私がクローゼットから引っ張り出してきた服たちが散乱していて、まるで空き巣にでも入られたかのようだ。  今日は平日、こうしている間にも出勤時間はどんどん迫ってくる。どうしようどうしようと焦りながら服を物色していると、騒ぎを聞きつけたらしい杏介くんがエプロン姿のままリビングからひょっこりと顔を出した。 「恭子さん、どうしたの? ……って、うわぁ。すごいことになってんね」 「杏介くん……! 助けてくださいっ!」  思わず彼に泣きつくと、杏介くんはどこか嬉しそうに「分かったよ」と頷いて、私を落ち着かせるようにぽんと肩に手を置いた。 「それで、どうしたの? 珍しいね、服決まらないなんて」 「そ、それが……今日羽織って行こうと思ってたカーディガン、今見たら目立つところに染みが出来てて……」 「うわあ、ほんとだ。これはクリーニング出さないと落ちないね」 「でしょ!? 今日は会議があるからかっちりめの格好にしようと思ってたのに、他のカーディガンだと色が派手すぎるしっ……!」 「そっかあ。それなら、下に着てるそのブラウス変えたら? ほら、襟付きのコットンシャツあったじゃん。あれならかっちりしてるし、長袖だからカーディガンなくてもいけるっしょ?」 「あー……うん。で、でもね……」  もごもごと口ごもると、彼は不思議そうに首を傾げた。杏介くんのアドバイスは的確なのだが、今日はある事情から黙ってそれを受け入れることができなかった。
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