可愛いのは

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 軽くショッピングを楽しんだ私たちは、そのあと杏介くんが探してくれたアジアンダイニングで夕食をとることにした。色んな料理を少しずつ頼んでシェアしながら、私と杏介くんはいつも通りファッションやメイクの話に花を咲かせ、お腹と心が満たされたところでお店を後にする。  そして、道中もたわいのない女子トークを交わしながら二人で暮らすマンションに辿り着いた。繁華街までは少し距離があるけれど、静かな住宅地に佇む築五年ほどのデザイナーズマンションで、私も杏介くんもお気に入りの部屋だ。 「ただいまーっと。杏介くん、先にお風呂入っちゃう?」 「あー……うーん、どうしよっかな……」 「まあいっか、とりあえず沸かしてくるね! あ、ちょっと寒いからリビングのエアコンつけといてくれる?」 「んー、分かったー」  間延びした返事を聞きながら、バッグを置いてお風呂場へと向かう。浴槽の栓がしてあることを確認して、給湯機のお湯はりボタンを押した。今日は金曜日だし、ちょっと贅沢にこの前雑貨屋さんで買った可愛いバスボムでも入れてみよう。  うきうきしながら洗面台の鏡の前でピアスを外していると、杏介くんが今日着ていた黒のロングカーディガンを脱ぎながら脱衣所に入ってくるのが見えた。  杏介くんもピアスを外すのかな、と少し端に寄ってスペースを空けたのだが、彼はゆっくりと後ろに立ったかと思うと、突然長い腕を伸ばして私の体を抱きしめた。 「えっ……きょ、杏介くん、どうしたの?」 「恭子さん。ちょっと口貸して」 「は? くち? ……んんんっ!?」  体を捩って振り向いた私の顎を掴むと、彼は半開きになった唇にいきなりキスをした。しかも、触れるだけの可愛いものではなく、舌を絡ませ合う濃厚なキスだ。  突然のことに驚きつつも、引きずり出すように舌を絡めとられ口づけを交わしているうちに、じんじんと体が熱を帯びてくるのが分かる。力が抜けそうになるのを堪えるように彼の腕に掴まって、懸命に激しい口づけに応えた。 「っ、はぁ……うん。いい感じ。似合ってるよ、その色も」 「んっ……、え……?」  ようやく口づけが止んだかと思えば、彼は何やら満足げな表情で私の唇を凝視していた。何だろう、と首を傾げると、「鏡見てみて」と正面を向くよう促される。  呼吸を整えながら目の前にある鏡に目を移すと、私の唇は杏介くんのものと同じ、淡いブラウン色に染められていた。 「えっ、これってまさか……」 「うん。さっき、貸してあげるって言ったでしょ? 今塗り直してきたから、約束通り貸してあげようと思って」 「なっ……! こ、こんなやり方じゃなくたっていいのにっ」 「えー、でもちょうどいい感じになってない? 恭子さんは俺と違って元々キレーなピンクの唇してるんだし、これくらい薄めに塗った方が似合うよ」  何か言い返したい気持ちは山々だが、「可愛いよ」とうっとりした声音で言われてしまうと何も言えない。杏介くんは押し黙った私の顎をもう一度掬うと、ふっと微かに微笑んで、再び深い口づけを落とした。それと同時に、彼が貸してくれたオリーブカーキのニットカーディガンの上から優しく胸を揉みしだかれて、私は慌てて杏介くんの肩をぐっと押し返す。 「んんっ……! ん、あっ、ま、まって、こんなところでっ……!」 「んー? だめ?」 「だ、だめっ……、せ、せめて、お風呂入ってからっ」 「お風呂沸くまで待てないんだけど」  にやりと笑うと、杏介くんは自分の着ていた黒のシアーブラウスのボタンを片手で器用に外していく。もう片方の手は私の胸を撫でるように触り続けていて、思わず甘い吐息が漏れた。
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