その服、めっちゃ可愛い

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その服、めっちゃ可愛い

「あのー、すみません。その服、どこで買ったんですか?」  彼との出会いは、そんな一言から始まった。  予定も何もない休日の土曜日。  今日は朝から気持ちの良い天気で、ベッドから起きてカーテンを開けた瞬間から「買い物に行こう」と決めた。  クローゼットを開けて、先々週買ったばかりのネイビーのトレンチスカートを取り出す。ぱんぱんと数回手で叩いて皺を伸ばして、先ほどまで寝ていたベッドに広げて置いた。このスカートに合わせるトップスは何にしようか。  眩しいくらい明るいイエローのシフォンブラウスもいいけれど、ちょっとお嬢様っぽくなりすぎるかな。春に買ったペールブルーのシャツも合いそうだけど、それは今洗濯カゴの中だ。  顎に手を添えながら考えに考えて、結局最初に手に取ったイエローのブラウスに袖を通す。裾をゆるめにインして、細身のベルトを巻いた。これで靴をスニーカーにすれば、お嬢様感は少し抜けるだろう。  こうして、その日の服を選ぶ時間が好きだった。自分にファッションセンスがあるかなんて分からないけど、コーディネートを考えるのは大好きだ。時間さえあればいつまででも服のことを考えていたいくらい。  でも、こんなに時間をかけて服を選んでも、「かわいいね」なんて褒めてくれる人はいない。よく行くショップの店員さんが社交辞令で褒めてくれるくらいだ。  ──お前、服選ぶのにどれだけ時間かかるんだよ。そんなに自分着飾って楽しいか?  うきうきしながらコーディネートを考える私に向かってそう言ったのは、一年前に別れた元彼だ。  あなたに見てもらいたくて一生懸命考えてるのに、なんて健気なセリフは出てこなかった。  私の口から咄嗟に出てきたのは、「楽しいよ。あんたと一緒にいるよりずっとね」という可愛げもへったくれもない言葉だった。  このやりとりをする前から元彼との関係はぎくしゃくしていたけれど、これが決定打となって別れることになった。でも、後悔は微塵もしていない。私の生きがいを理解してくれない男と一緒にいたって楽しくもなんともない。
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