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一緒に住もうよ
杏介くんと付き合い始めて、半年が過ぎた。
半ば強引に始まった関係ではあるけれど、彼とのお付き合いは驚くほど順調だった。
というのも、蓋を開けてみれば杏介くんは少々やりすぎなくらい良くできた彼氏で、文句のつけどころがないのだ。
たまに些細なことで言い合いになることもあるが、杏介くんは感情的になることもなく「その点は俺が悪いけど、恭子さんだって悪いよね?」なんて理路整然と諭してくる。そうなると、「そっか、ごめん」と素直に謝るしかないのだ。
デートは相変わらずショッピングが中心で、もちろん彼は女の子の格好で待ち合わせ場所にやってくる。仕事帰りだとたまに男の子の格好もしてくるけれど、今ではもうその姿に驚くこともなくなった。
どんな格好をしていても中身は変わらないし、今ではどちらの彼も好きだと自信を持って言える。そう思えるようになったのも、杏介くんがこれでもかというほど愛情を持って接してくれるおかげだろう。
休日の日曜日、今日も私は一人暮らしをしている彼の家にお邪魔している。お互い土日が休みだから、週末はどちらかの家に泊まるのが恒例になっているのだ。
「恭子さん、何見てんの?」
ソファに転がりながらスマホをいじっていた私に、二人分のマグカップを持った杏介くんが尋ねてきた。
いい匂いにつられて体を起こすと、温かいコーヒーを手渡される。ありがと、とお礼を言ってから、ひとまずスマホを置いてマグカップにそうっと口をつけた。
「あのね、物件見てたの。今住んでる部屋、ちょっと狭いし古いから。今年で契約更新しなきゃいけないし、どうせなら引っ越そうかなーと思って」
「……ふーん。確かに、あんまり広くはないね」
「でしょ? 職場からちょっと離れてもいいから、もっと広い部屋がいいんだけど……ウォークインクローゼットなんか付いてるとこはやっぱ高いんだよねぇ」
最近では暇さえあればスマホで物件探しをしてはいるものの、今の部屋より広い物件となると思っていたよりも家賃が高くなるみたいだ。2DKくらいは欲しいと思ったけれど、そうなるとファミリー向けのアパートばかりで、一人で住むには広すぎるし家賃も高い。
お一人様向けの広い部屋があればいいのになぁ、なんて思いながらコーヒーを飲んでいると、お揃いのマグカップを握りしめた杏介くんがぽつりと言った。
「それなら、一緒に住もうよ」
へ、と私が間抜けな声を上げると、杏介くんはもう一度「一緒に住もう」と真面目な声で呟いた。それから、状況を飲み込めずにいる私の目を見ながら言い募る。
「どうせ引っ越すなら、そうしようよ。二人で折半すれば家賃もそこまで高くないし。ちょうどよくない?」
「え……で、でも」
「その方がお互い良いと思うんだけど。俺、朝強いから朝ごはんと弁当は作るし。それで早く帰ってきた方が夕飯作って待ってるとか」
「い……いいかも、しれない……」
「でしょ? それに、服の貸し借りだってできるよ」
「……それ、最高じゃない?」
「最高だよ」
そう言って杏介くんが嬉しそうに笑うから、私も思わず笑顔になった。
考えれば考えるほど「一緒に住もう」という彼の提案がとても素敵なものに思えてきて、私は子どものようにはしゃぎながら彼に抱きついた。
「すごい、杏介くん! すっごい楽しいこと思いつくね!」
「え、そう? ていうか、恭子さんはちっとも考えてなかったわけ? 俺と同棲したいなーとか」
「うん、思いつかなかった!」
「何それ。地味にショックなんだけど」
そんなことを言いながらも杏介くんの顔はにやけていて、私はさらに嬉しくなった。
同棲なんて別れた時がめんどくさそうだと、以前までの私なら断ったことだろう。でも、なぜか杏介くんとなら一緒に住みたいと思えるのだ。
趣味に没頭する私に呆れるどころか、杏介くんはその喜びや楽しみを共有してくれる。今だってこんなに近くにいるのに、ずっと彼と過ごす時間が続いてほしいと願ってしまうほど、杏介くんの隣は居心地が良かった。
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