Act.1

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 当たり前だけど、婚姻届を書いたのは生まれて初めてだった。  オブラートみたいに薄いペラペラの用紙に順番に記入して捺印する。署名捺印にこれほど緊張することもないだろうっていうぐらい緊張して、手が震えてしまった。  もしかしたら、『香山くるみ』と署名するのはこれが最後かもしれない。そう思うと、感慨深いものがある。  記入を終えると何度もチェックして、2人で一緒に提出した。日曜日は役所がお休みなので、職員の人が確認してくれるのは明日だろうけど、不備がなければこれでわたしも念願の”氷川くるみ”になれる。  29年お世話になった”香山さん”とはサヨナラだけど、寂しさよりも嬉しさの方が遥かに大きかった。  まだ全然実感がないけれど、わたしもそのうち「氷川の家内でございます」なんて言う日がくるのかな? うふふ。考えただけでニヤニヤしちゃう。 「どうですか? 氷川さんになる感想は?」  役所からの帰り道、稜サンが訊いた。 「まだ実感はないけど最高の気分です」 「そっか。それはよかった」 「でも、どうして今日だったの? 今日って何かの記念日とかじゃないよね?」  今さらながら確認してみる。
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