【ヴィルヘルム】真夜中/シェーン城 敷地内

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【ヴィルヘルム】真夜中/シェーン城 敷地内

【ヴィルヘルム】真夜中/シェーン城 敷地内  いつ雪が降り出してもおかしくない空模様だった。厚い雲の隙間から辛うじて三日月が顔を覗かせているが、月明かりだけでは頼りなくてオレはランプを握りしめる。  深夜に人を訪ねるのは初体験だ。さらに言うと墓を掘り返したあとに人を訪ねるのも初体験である。 (墓を掘り返したあとに人を訪ねるとか、失礼に当たらないのかな……)  そんな礼儀指導は受けたことがないなと思いつつ、シェーン城の居館と塔の間にある庭を抜けて裏門のほうに向かう。  オレは一人寂しく凍えた夜空の下を歩いている。鳥も獣も人の声もなくて、吐く息は真っ白。墓地とは異なる静寂の中、緊張を訴えるオレの心音だけが聞こえて不安になってくる。 (天才錬金術師様の世話係がオレで大丈夫なんだか……。天才だよ天才)  オレはまだ会ったことはないけど、先輩たちが言うには錬金術師様はたまに食堂に顔を出しているらしい。丸眼鏡や片眼鏡をつけた聖職者もしくは学者風の気さくで話しやすい人――らしい。  オシャレ好きなのか、着る服に合わせて髪の毛も編んだり、解いたり完璧主義の凝り性だとも。  不安はあれどリヒト団長に『この国の中で一番適任』と断言されればやるしかない――が、シャッテン様の秘書を仰せつかった際にも似たような事を言われた気がして、実は貧乏くじを引かされているだけかもしれない。 「あっ――これかな?」  裏門の植木の周りを探し、地下への扉をらしき物を見つけた。木製のボロい小さな扉に錆びた錠前。地下食品庫にも見える扉には高等な魔術がかかっているらしく、簡単に侵入できないらしい。  懐に手を入れてリヒト団長から預かった古い鍵を錠前に差し込むとカチリと錠が外れる。取っ手を引っ張れば、地下へ続く階段が見えた。
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