みずしらず

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みずしらず

私がその部屋に入ると、女性たちがコの字型に置かれたソファーに座ってテレビを観ていた。 そこは都会のクリニックの待合室を思わせるこぎれいながらも、よそよそしい空間だった。 中年女の隣に陣取ってテレビを観る。 画面には人相の悪い男が映っていて、『衝動的にやった。相手は誰でもよかった』と不貞腐れたように言う。 突然、離れた席に座っていた女が泣きだした。 次に画面に映ったのはしょぼくれた女で、『金に困ってやったのよ』と言った。 それを聞いていた隣の女が、「あれ、あたしの妹」と呟いた。 「え?」 「借金こさえてさ、挙句の果てにじつの姉をブスリ」と彼女は乾いた笑い声を立てた。 「いったいどういう?」 「あんた聞いてないの? ここはね、あの世とこの世の狭間。で、ここにいんのは殺された女」 「え」 「テレビでさ、殺された理由を速報で教えてくれんのよ。理由がわかんなきゃあの世にも行けないでしょ」 女がグイと身を乗りだす。 彼女の白装束が左前になっていてギョッとする。 慌てて自分の胸元を見るとやはり左前なのだ。 そんなバカな、と視線をさまよわせた先のテレビに自分のよく見知った男が映って、私は小さく叫び声を上げる。 「知り合い?」と女。 「夫です」震え声で答える。 眼窩をくぼませた夫は、『みずしらずの他人を見るような妻の視線に耐えられなかった』と低い声で語った。 それを聞いた女が言った。 「夫婦なんて爪の先から頭の先まで他人だろうに」
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