好きと嫉妬

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 その日の夜、俺は先日と同じように、花香姉の部屋を訪れた。 「花香姉。漫画ありがとう」  『七剣の青龍』全10巻を手渡そうとしたら、 「由希也、本棚に入れておいて」 ベッドに寝転がってスマホをいじっていた花香姉からそう指示されたので、俺は膝をついて一冊づつ本棚に戻していった。  並べ終わった後、本棚を眺めながら、 「花香姉。このモリノトウコって人の他の漫画も持ってる?」 と聞いてみる。 「持ってるよ。ほらここ」  花香姉はベッドから起き上がると、座る俺の横から身を乗り出し、手を伸ばして一冊の本を取った。花香姉は今夜もTシャツ一枚の姿で、前かがみになった襟元が緩み、豊かな胸元が見えた。 「…………」  例え相手が姉でも、通常の思春期男子だったら、ここで一瞬ドキッとするのかもしれないが、相変わらず俺は何の感慨も抱かない。そして、昼間、真殿の胸が背中に触れた時、やけにドキドキしたことを思い出した。 (何でだろう?)  単に、身内と他人の違いだろうか。そんなことを考えていると、 「はい、これだよ」 花香姉は、本棚から取り出した漫画を俺に手渡した。そして、 「でもその漫画、私あんまり好きじゃないんだよねぇ……。『七剣の青龍』は面白かったけど、それに比べてなんだかクオリティが下がってるっていうか」 と肩をすくめた。 「へえ、そうなんだ……」  俺は漫画を受け取ると、中をパラパラとめくってみた。一見して、余白が目立つ。背景や衣装の書き込みも少なく、全体的に前作より雑になっているようだ。 「とりあえず、借りるよ」 「どうぞ~」  花香姉はひらひらと手を振ると、ベッドに戻り、再びスマホを触り始めた。受験生なのに勉強をしなくていいのだろうかと心配になる。 「それじゃ、おやすみ」  俺は花香姉に声を掛け部屋の扉を閉めると、借りた漫画を手に自分の部屋へと戻った。
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