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(side由希也)
荻野が見つかった後、夜も遅いという事で、村雨先生が俺と真殿をタクシーで送ってくれることになり、タクシー会社に連絡を取っている間、俺と真殿はふたりで校門の前で待っていた。
荻野は今晩はこのまま地下室に泊まるらしい。一晩よく考えて、気持ちの整理を付けてから、明日、家に帰ることにすると言っていた。その際も、村雨先生が同行してくれるらしい。先生なら、きっと丸く収めてくれるに違いない。けれど、
(村雨先生、厳しい処罰を受けないといいんだけど)
荻野の家出を知っていて黙っていた先生は、きっと学校側から、何かしらの罰を受けることになるのだろう。
内心で村雨先生の心配をしていた俺の隣で、
「荻野さん、お母さんと再婚相手の人に、家出のこと、怒られないといいね……」
真殿は荻野を心配してそうつぶやいた。
家出は褒められた行為ではない。きっと彼女も怒られるだろう。けれど、荻野が自分の気持ちを正直に伝えたら、親の心にも響くものがあるに違いない。
俺は、隣の真殿を、そっと見つめた。
真殿が荻野に向かって「そんなのおかしい」と言った時は、てっきり、親の気持ちも考えず家出をしたことに対して批判しているのだと思った。
俺の推測では、きっと荻野の母親は、好きな男が出来たからという単純な理由だけではなく――おそろく母親だって愛する夫が亡くなって精神が不安定になっていたのだろうし、そしてその支えになってくれる人物が欲しかったのだろうとは思うが――第一に、荻野の将来や、経済状況を考慮した上で再婚を決めたのではないだろうか。荻野が母親とぶつかって、気持ちを伝えて、そして荻野家が今後どういう選択をするのか、それは俺たちが口を挟むことではないだろう。
けれど、そんな大人の事情など微塵もお構いなく、
「私、荻野さんは悪くないと思う!荻野さんのお母さんは、もっと荻野さんの気持ちを尊重するべきだよ!」
真殿が荻野に向かってそう言い切った時、俺は本当に驚いた。そしてそれは、俺をも肯定する言葉であるかのように、俺の胸に強く響いた。
「真殿」
名前を呼ぶと、真殿は、
「ん?」
と言って振り返った。
「君って……すごいな」
「えっ?」
俺が突然、称賛の言葉を口にしたものだから、真殿は意味が分からず、戸惑っているようだ。
「何が……」
問おうとしたので、俺はそれを制するように微笑むと、
「何でもないよ。ただ……そう思ったんだ」
と囁いた。
――真殿のまっすぐで素直なところが、好きだ、と思った。
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