127人が本棚に入れています
本棚に追加
(side由希也)
「俺、真殿に告白しようかな~」
洗面所で手を洗っていた俺を見かけた杉本が、「おーい、小鳥遊!」と言って近づいてくると、開口一番にそんなことを言った。
「えっ……?」
思わず口ごもってしまった俺に気づかず、
「いや~、なんか俺、真殿のこと好きになっちゃったみたいなんだよね。姿を見かけると、つい、こう、目で追ってしまうというか」
腕を組んで、うんうんと頷いている杉本に驚いてしまう。
「……それって、巨乳が気になるだけじゃなくて?」
低い声で問いかけると、
「もちろん巨乳も気になるぜ。でも、それだけじゃなくて、しぐさとか笑顔とかも可愛いなーって思うようになって」
杉本は照れたように頭を描いている。
俺は蛇口を締めた。ポケットからハンカチを取り出し、手を拭きながら踵を返した。
「……勝手に告白すればいいんじゃない?」
冷たくあしらうと、
「うわ、意外な反応」
杉本が俺の隣に並んで歩きながら、わざとらしく目を丸くする。
「てっきりお前も真殿のこと好きなんだと思ってた。だから一応、先に報告しておこうと思ったんだけど」
(…………)
そんな深い考えがあったとは思わなかった。意外と律儀な奴だ。
「小鳥遊はどう思ってるんだよ」
「どうって……別に」
つい言い淀んでしまい、そう答えると、
「そっか。そうだよな~」
杉本は頭の上で手を組んで、晴れ晴れとした顔をした。
「小鳥遊は真殿のこと、なんとも思ってないって言ってたもんな。なにせお前は貧乳フェチだからな!」
「そういうこと大声で言うなよ」
人の性癖を廊下で大声で話さないでほしい。うんざりして、溜息をつく。
美術室の前にやって来た俺は、扉に手を掛けながら杉本を睨んだ。
「お前、早くクラブに行けよ。いつも俺のところで油売ってるけど、遅刻してないのか?」
「エースは多少遅れて行っても大丈夫なのさ」
「そんなエース迷惑極まりないな。体育会系なんて、統率が一番大事じゃないか」
しっし、と追いやるように手を振る。
ガラリと扉を開け美術室の中へ入ると、視界の端に、反対側の扉から出ていくスカートの裾が映った。
「えっ?」
目を瞬かせる。誰か教室の中にいたのだろうか?
驚いて廊下に戻り、視線を向けると、小走りに去っていく女子生徒の後姿が見えた。
ふわふわの猫っ毛が、肩の上で揺れている。
(真殿……?)
俺はハッとして口元を押さえた。
(もしかして……聞かれた?)
そして、美術室の中のキャンバスが目に入り、再度、ハッとした。
(絵も、見られた?)
「おい、小鳥遊、どうしたんだ?」
突然、固い表情をして黙り込んでしまった俺を、杉本が不思議そうな顔で見ていた。
最初のコメントを投稿しよう!