偽りの肖像画

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(side由希也) 「俺、真殿に告白しようかな~」  洗面所で手を洗っていた俺を見かけた杉本が、「おーい、小鳥遊!」と言って近づいてくると、開口一番にそんなことを言った。 「えっ……?」  思わず口ごもってしまった俺に気づかず、 「いや~、なんか俺、真殿のこと好きになっちゃったみたいなんだよね。姿を見かけると、つい、こう、目で追ってしまうというか」 腕を組んで、うんうんと頷いている杉本に驚いてしまう。 「……それって、巨乳が気になるだけじゃなくて?」  低い声で問いかけると、 「もちろん巨乳も気になるぜ。でも、それだけじゃなくて、しぐさとか笑顔とかも可愛いなーって思うようになって」 杉本は照れたように頭を描いている。  俺は蛇口を締めた。ポケットからハンカチを取り出し、手を拭きながら踵を返した。 「……勝手に告白すればいいんじゃない?」  冷たくあしらうと、 「うわ、意外な反応」 杉本が俺の隣に並んで歩きながら、わざとらしく目を丸くする。 「てっきりお前も真殿のこと好きなんだと思ってた。だから一応、先に報告しておこうと思ったんだけど」 (…………)  そんな深い考えがあったとは思わなかった。意外と律儀な奴だ。 「小鳥遊はどう思ってるんだよ」 「どうって……別に」  つい言い淀んでしまい、そう答えると、 「そっか。そうだよな~」 杉本は頭の上で手を組んで、晴れ晴れとした顔をした。 「小鳥遊は真殿のこと、なんとも思ってないって言ってたもんな。なにせお前は貧乳フェチだからな!」 「そういうこと大声で言うなよ」  人の性癖を廊下で大声で話さないでほしい。うんざりして、溜息をつく。  美術室の前にやって来た俺は、扉に手を掛けながら杉本を睨んだ。 「お前、早くクラブに行けよ。いつも俺のところで油売ってるけど、遅刻してないのか?」 「エースは多少遅れて行っても大丈夫なのさ」 「そんなエース迷惑極まりないな。体育会系なんて、統率が一番大事じゃないか」  しっし、と追いやるように手を振る。  ガラリと扉を開け美術室の中へ入ると、視界の端に、反対側の扉から出ていくスカートの裾が映った。 「えっ?」  目を瞬かせる。誰か教室の中にいたのだろうか?  驚いて廊下に戻り、視線を向けると、小走りに去っていく女子生徒の後姿が見えた。  ふわふわの猫っ毛が、肩の上で揺れている。 (真殿……?)  俺はハッとして口元を押さえた。 (もしかして……聞かれた?)  そして、美術室の中のキャンバスが目に入り、再度、ハッとした。 (絵も、見られた?) 「おい、小鳥遊、どうしたんだ?」  突然、固い表情をして黙り込んでしまった俺を、杉本が不思議そうな顔で見ていた。
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