【文化祭編】姫と王子

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「白井さん、お待たせ」  先ほど悪口を言われていた彼女に声を掛けるのは、少し勇気がいる。 「真殿さん、このドレスなんだけど、胸、入るかな?」  白井さんは椅子から立ち上がると、黄色いドレスを私の体にあてがった。胸元で生地を広げながら、 「う~ん、ぱつんぱつんっぽいなぁ」 と難しい顔をする。 「制服の上からでいいから、着てみてくれない?」 「分かった」  私はドレスを受け取ると、服の上からかぶり、袖を通してみた。脇のファスナーを上げようとして、すぐに、 「ごめん、キツイ……」 情けない顔をして白井さんを見た。完全に胸のところでつっかえている。 「あーあ、やっぱり……真殿さん、胸大きいからなあ」  白井さんは、ふっと鼻で笑った。 「調整するね。バスト測らせてくれる?」 「お手数をかけて、ごめんね……」  ドレスを脱いで手渡すと、白井さんはそれを霜月さんに渡し、ポケットからメジャーを取り出し私の体に手を回した。私の胸にメジャーを巻きつけながら、 「ホントに大きいよね」 と呆れたように言われたので、 「大きくても、何も……」 いいことはないよ、と続けようとした時、 「男子が騒ぐのも分かる」 白井さんはぼそりとそうつぶいやいた。なんだかいちいち白井さんの言葉に棘がある。 (もしかして白井さん、一ノ瀬君のこと好きなのかな)  さっき私が一ノ瀬君と仲良く話していたのが気に食わないのかもしれない。思わず黙り込んでいると、 「はい、終了」 白井さんはそう言って私の体から手を放すと、くるくるとメジャーを巻き取った。 「それじゃあ、もういいよ」 「あ、ありがとう……」 「咲良、真殿さんの衣装、手直ししてくれる?寸法は……」  用事が済んだとばかりに、白井さんが椅子に座ってしまったので、私は、 「じゃあ……」 と言ってその場を離れた。 (なんだか怖いよ~……)  内心で震えていると、 「真殿さん、用事終わった?」 一ノ瀬君が近づいてきて、私の手を取った。 「うん」 「それじゃあ、早速特訓へ行こう!」  そのまま私を引っ張り、教室の扉まで連れて行く。 「わっ、ちょっと待って一ノ瀬君……!」  手を繋いでいるところを白井さんに見られたら、また何を言われるか分からない。けれど一ノ瀬君は構わず、ぐいぐいと私を廊下に連れ出した。 (わぁ~……クラスの女子の視線を感じるよ……)  ちらりと振り返ると、白井さんを始め、他の女子も私たちのことを見つめている。 (こ、怖っ!)  私は慌てて一ノ瀬君の手を振り払うと、 「い、一ノ瀬君、演技の練習に付き合ってくれるなんて優しいねっ」 弁解の意味を込めて、そう口に出した。 「ほ、ほら、私、演技まだまだ下手だしっ」  一体誰に向けて話しているのかと、一ノ瀬君が不思議そうな顔をしている。そして、 「どうしたの?早く行こう」 私を促すと、教室の扉を閉めた。  クラスメイトの女子の鋭い視線が扉で遮られ、私は「はぁー」っと息を吐いた。そして、   「特訓ってどこでするの?」 一ノ瀬君を見上げて聞くと、彼は、 「うーん」 と考え込んだ後、すぐにいい場所を思いついたのか、ぽんと手を打ち、 「旧校舎の3階に行こう。あそこ、写真部の部室以外、教室空いているし」 と、まるで秘密基地へ誘う子供のようなしぐさで、耳打ちをした。 (いちいち、近い……!)  私は慌てて一ノ瀬君から身を離すと、 「確かにあそこなら、静かでいいかも」 と頷く。 (こんなんじゃ、ますますクラスの女子に睨まれちゃうよ。一ノ瀬君の隣にいる時は、なるべく距離を取っておこう……)  私はそう心に決めながら、彼と連れ立って旧校舎へと向かった。 
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