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(side雛乃)
「『白雪姫が死んでしまった』」
「『死んでもめっちゃ綺麗やな』」
「『こんなん土の中に埋められへんわ』」
関西弁の小人たちが、白雪姫を取り囲んで悲しんでいる。
その様子を舞台袖で眺めながら、私は、どこか寂しい気持ちを感じていた。
「『その棺を私に譲ってくれへんやろか』」
一ノ瀬君の王子様が、小人たちに懇願している。小人たちは熱心にお願いする王子に根負けすると、白雪姫の眠る棺を王子に託した。
王子が家来に棺をかつがせ、自分の城へと戻る途中、家来が木に躓き、そのはずみで白雪姫の喉に引っ掛かっていた毒リンゴの欠片が飛び出した。と同時に、白雪姫が体を起こし、
「『まあ、ここはどこやろ?私は一体どうしたんやろ?』」
と驚いた顔をした。
きょろきょろと周りを見回す白雪姫は、霜月さんだ。私が足を挫いて出られなくなってしまったので、急遽、彼女がピンチヒッターに立ってくれた。継母役の荻野さんの練習に付き合っていたので、白雪姫の台詞はばっちり覚えていたらしい。
「『あんた、誰なん?』」
「『俺は、この国の王子やで。あんたに一目ぼれしてしもて、棺を譲り受けたんや。結婚してくれへんやろか』」
一ノ瀬君が霜月さんに跪くと、霜月さんは一ノ瀬君の手を取った。そして嬉しそうに顔を綻ばせると、
「『こんなイケメンがプロポーズしてくれるやなんて、めっちゃ嬉しいわ!』」
と続きの台詞を口にした。
(ああ、あの台詞を言うのは、私だったのにな……)
一ノ瀬君との特訓を思い出して、私はこっそりと目を擦った。
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