真相

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真相

(side雛乃)  放課後、私はいつもの花壇で、ひとりで花に水をやっていた。  園芸部に所属しているのは、私ひとりだけ。以前、蛍も誘ってみたのだが、彼女は「私は必ず植物を枯らす女だから」とやけに自信たっぷりに(妙に格好をつけて)言い、あっさりと断られてしまった。  断られたのは残念だったが、今は、それはそれで別に構わないと思っている。あまり人の来ない裏庭で、ひとりで花と戯れている時間は、心も落ち着くし、勉学のリフレッシュにもなって楽しかった。  ホースからの散水で、花壇の上に小さな虹が掛かっている。ラベンダーはもう盛りを過ぎ、今はヒマワリがすくすくと成長していた。どれぐらい伸びるだろうかと考えながら、ふと校舎を見上げる。この上が美術室だったなんて、今まで全く意識したことはなかったが、自分の知らない間に、2階の窓から小鳥遊君が自分を見ていたのだと思うと、照れ臭い気持ちになった。 「もう絶対に歌わないから」  強く心に決め、拳を握る。  そして、ここ数日、原画探しに協力してくれる小鳥遊君に会うため、毎日、美術室に通っていたことを思い出した。この数日間、とても楽しかったが、原画が見つかった今、もはや美術室に行く口実がなくなってしまったことに、私は落胆していた。  せっかく小鳥遊君と話が出来るようになって、少しずつ仲良くなって来ていると思っていたのに。 「…………」  クラスも違うし、用事がないと声も掛けづらい。  でも、どうにかしてもっと仲良くなり、あわよくば私のことを好きになってもらいたい。 「挨拶とかなら、してもおかしくないよね?」 (頑張るもん!)  美術室の窓を見つめながら心の中で決意を固めていると、その窓から、ひょいっと顔を出した人物がいた。小鳥遊君だった。今まさに彼のことを考えていた最中だったので、思わず、 「うひゃっ」 と声が出た。 「真殿」  頭上から名前を呼ばれて、私はバクバクする心臓を押さえて彼を見上げた。 「ちょっと今、時間ある?」  小鳥遊君にそう問われて、 「う、うん。大丈夫」 と答える。 「それじゃ、昇降口のところに来て。もし安達がいたら、安達も一緒に」 「うん、分かった」  私は訳が分からないままに頷いた。一体、何の用事なのだろう。  私はホースを置くと、蛇口を締めに行った。くるくるとホースを巻いて、邪魔にならないよう水道の横の定位置へと置く。  カバンを手に取ると、私は逸る気持ちで、昇降口へと向かった。
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