115人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
真相
(side雛乃)
放課後、私はいつもの花壇で、ひとりで花に水をやっていた。
園芸部に所属しているのは、私ひとりだけ。以前、蛍も誘ってみたのだが、彼女は「私は必ず植物を枯らす女だから」とやけに自信たっぷりに(妙に格好をつけて)言い、あっさりと断られてしまった。
断られたのは残念だったが、今は、それはそれで別に構わないと思っている。あまり人の来ない裏庭で、ひとりで花と戯れている時間は、心も落ち着くし、勉学のリフレッシュにもなって楽しかった。
ホースからの散水で、花壇の上に小さな虹が掛かっている。ラベンダーはもう盛りを過ぎ、今はヒマワリがすくすくと成長していた。どれぐらい伸びるだろうかと考えながら、ふと校舎を見上げる。この上が美術室だったなんて、今まで全く意識したことはなかったが、自分の知らない間に、2階の窓から小鳥遊君が自分を見ていたのだと思うと、照れ臭い気持ちになった。
「もう絶対に歌わないから」
強く心に決め、拳を握る。
そして、ここ数日、原画探しに協力してくれる小鳥遊君に会うため、毎日、美術室に通っていたことを思い出した。この数日間、とても楽しかったが、原画が見つかった今、もはや美術室に行く口実がなくなってしまったことに、私は落胆していた。
せっかく小鳥遊君と話が出来るようになって、少しずつ仲良くなって来ていると思っていたのに。
「…………」
クラスも違うし、用事がないと声も掛けづらい。
でも、どうにかしてもっと仲良くなり、あわよくば私のことを好きになってもらいたい。
「挨拶とかなら、してもおかしくないよね?」
(頑張るもん!)
美術室の窓を見つめながら心の中で決意を固めていると、その窓から、ひょいっと顔を出した人物がいた。小鳥遊君だった。今まさに彼のことを考えていた最中だったので、思わず、
「うひゃっ」
と声が出た。
「真殿」
頭上から名前を呼ばれて、私はバクバクする心臓を押さえて彼を見上げた。
「ちょっと今、時間ある?」
小鳥遊君にそう問われて、
「う、うん。大丈夫」
と答える。
「それじゃ、昇降口のところに来て。もし安達がいたら、安達も一緒に」
「うん、分かった」
私は訳が分からないままに頷いた。一体、何の用事なのだろう。
私はホースを置くと、蛇口を締めに行った。くるくるとホースを巻いて、邪魔にならないよう水道の横の定位置へと置く。
カバンを手に取ると、私は逸る気持ちで、昇降口へと向かった。
最初のコメントを投稿しよう!