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星の導き
(side雛乃)
「ヒナ、次の授業、家庭科室だよ!急がなきゃ」
「うん、分かってる!」
私は教科書を机の中に押し込むと、エプロンの入った袋を手に、立ち上がった。
前の授業が長引いてしまい、移動時間が5分しかない。
先に出て行った蛍を追って、教室から飛び出した時、
「きゃあっ!」
思い切り誰かにぶつかった私は、さらに教室の扉の桟に躓いて、相手を巻き添えにし、盛大に前かがみにこけてしまった。
「ご、ごめんなさいっ!……!!」
鈍くさい私の巻き添えになった誰かに向かって咄嗟に謝ったのだが……。
「きゃああああっ!!」
相手はきっと私を庇おうとしてくれたのだろう。それは分かる。分かるのだが……がっしりと胸を掴まれていることに気づいた私は、大きな悲鳴を上げてしまった。
相手はすぐに手を放してくれたが、私は仰け反り、真っ赤になって胸を抱え込んだ。
「ごめん、真殿。大丈夫?」
しかも相手はこともあろうに小鳥遊君だった。
小鳥遊君は顔色も変えず、私の下から抜け出し立ち上がると、
「ケガはない?」
と優しく聞いてくれる。
激しく縦に頭を振り、ケガがないことを主張すると、未だしゃがみ込む私に、彼は手を差し出してくれた。けれど、恥ずかしさのあまりその手を握る勇気が持てず、私は自力で立ち上がると、
「い、急ぐのでっ!さ、さよなら……っ」
落ちたカバンを拾い上げ、廊下を走って逃げ出した。
「真殿!昨日の話で思いついたことがあるから、放課後に美術室へ来て!」
完全にパニック状態の私に向かって、背後から小鳥遊君がそう叫んでいるのが聞こえて来た。
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