3章

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 晩御飯にまぐろの猫缶を食べた後、吾輩は爪を研いでいる兄さんの背後を取る。 「兄さん」  テレビで放映している音楽番組の曲に合わせて腰を振っていた兄さんは作業を止めて振り向いた。 「どうしたルーちゃん。眉間にシワ寄せて」 「俺の名前どう思う? 『田中ルートヴィッヒ』って」  兄さんは腕を組んで正直に苦笑した。 「苗字とのバランスが悪くてお笑い芸人みたいだよな」 「『染谷(そめや)』光宙は?」 「漢字にすればいい感じだけどな」 「地味に駄洒落を吐くな」  バレたかと兄さんは舌を出す。確信犯かよ。 「似合ってると思うよ。どこで聞いたんだったか忘れたけどさ、ルートヴィッヒの元々の意味は『名高い戦士』らしい。ルーちゃん、文句言う割にはいつも面倒見いいじゃないか。厄介事と戦う英雄(エロイカ)だ」  会話中しれっとベートーヴェンの名曲のタイトル出てくるなんて猫捨ててる兄貴だな。唯ちゃんの部屋にまんがの伝記があるが、絶対あの子「エリーゼの為に」くらいしか知らない。 「今日けっこう図星ついてしまったからさー、あいつ復活するといいけどなー……」 「レクイエムでも歌ってやるといい」 「鎮魂歌じゃねーか、むしろとどめ刺してるよ」  ちなみに兄さんは、さっきまで超スローテンポのアメージンググレイスで腰をふりふりしていた。
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