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そう叫ぶより早く、さぶ太郎がヨーコの手から匙を叩き落した。
「やっ!? なにすんのよ!」
「のま、ないで……ヨーコさん。スープに、ど……毒……で、ござ……」
「え……!?」
ズルリと椅子から落ちたさぶ太郎を、ヨーコが呆然と見下ろす。絶句してしまった彼女の代わりに、他の客のあちこちから悲鳴が上がった。
「毒……って」
さっきスープがかかった一輪挿しの花が、ジュウウ……と爛れたように茶色く溶けていく。
『何をしとるヨーコ! ムコどのに水を大量に飲ませて毒を吐かせるんじゃ、早く!』
頭の上から響いたマンタイの叫びで我に返り、ヨーコは水差しの水をさぶ太郎の口の中に突っ込んだ。
「しっかりしなさいよ……ほら全部飲んで!」
ガボガボと音を立てて水差しが空になっていく。
『もういいぞぃヨーコ! 次は毒ごと吐かせろ!』
お腹がポッコリ膨らんださぶ太郎をシャカシャカとシェイクした後、両足を掴んで逆さ吊りに。途端にゴバアアァと飲ませた水が床にリバース。
「さぶたろ! コガニンのくせに毒くらいでヘタるな、起きなさい!!」
けれど、びしょ濡れになった彼はピクリとも動かない。ただヨーコの腕の中で、洗濯したぬいぐるみのようにクッタリと四肢を垂らしているだけ。
それどころか呼吸音も聞こえず、胸元に手を置いてみても。
「……うそ……でしょ」
さぶ太郎の心臓は、命の鼓動を止めていた。
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