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「ついたあぁぁ! クロワッ山、あたしを煙に巻くとはイイ度胸ね……!」
やっと目的の山に辿り着き、ヨーコは山道を駆け登った。崖をよじ登る事は流石に不可能で、体力にモノを言わせて無我夢中で走る。
「あ、岩から氷砂糖みたいな石が出てる」
黄色ですらない、岩肌から露出したくすんだ色の鉱石。磨いたとしてもこれらはおそらく無色透明な宝石にしかならないだろう。
「てっぺんに行けば青いのがあるのよね。急がないと!」
思い出すのはフカフカな手足、恥ずかしそうに耳を押さえて照れる笑顔。
蒸し暑くて寝苦しい夜、目を覚ますと彼がうちわで扇いでくれていた(スカートの下方から)。
甘いものが食べたいと呟けば、おやつの時間にはつやつやのプリンを作ってくれた(おちり型)。
ヨーコさん。
ヨーコさぁん。
どんなに足蹴にしてもすぐにケロッと名前を呼んでくる、可愛いヤツ。
「待ってなさいよ。今すぐ青いトパーズを……! あれ?」
さっきまで荒野がだいぶ下に見えていたのに、なぜか地上がやけに近い。
「はっ! もしかして、いつの間にかあたし山を下りてる!?」
その時だった。
道の向こうに、見覚えのある人影が映り込んだ。それは黒い忍び装束に、真っ白フカフカな手足。
「えっ……!? さぶたろ……」
そんなはずはない。けれど誘うように前を行く姿は、紛れもなく。
「待って……、さぶたろ!」
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