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なんとなく思い立って、海に来た。
綺麗な夕焼け、地平線のその先が見えるような気がして、ずっと眺める。
海はなんでこんなに綺麗なんだろうなあ……。
私は一度、幼い頃に家族につられ海に来たことがある。あまり記憶にはないが、確か足にもずくが絡まって、とても気持ち悪い思いをしてから夏になっても、海に行こうとは思わなかった。むしろ山や川の方が多いと思う。
「海の家ってあるのかな」
一度は見て見たい、本物の海の家。いや、テレビでなら見たことあるけど。
近場の海に行こうにも何も無いのがわかっているし、何なら隣町まで見に行こう、なんて自転車でとばしてきてもう二時間、海はただぼうっと眺めているだけでも時間潰しになる。ポシェットからスマホを取り出し、海面や空に向かってピントを合わせる。
「……あおいなあ」
そうやって何度も試行錯誤しているうちに、雲で太陽が隠れる。くそ、タイミング逃した。
私はまた、地平線のその先を眺める。周りに人もいなく、波の音がただ響くだけだった。
海に関係ないけど、こういう時すごくあいつのことを思い出す。所々ナルシストで、だけど時々優しいところが垣間見えるというか。そんな少年。
……私は彼が好きだった。
今ではあまり会うこともないが、それでも私の脳裏には彼が焼き付いていた。──いわゆる片想い、というものだろう。でも彼は、既に彼女がいた。
今の時代SNSというものが広まっていて、私がスマホを買い換えた次の日あたりに、何故か彼とも連絡先を交換したこともあった。高校二年生からの片想い、彼女がいると知っておきながら今更ながらの方法でそれとなく、告白もしたこともあった。……でも当然の如く振られた。
過去に一度違う人にも告白をし振られたこともある。その時は涙が出たがすぐ諦めることが出来た。
……だけど、今回は全く諦めることが出来ず、大学生になった今でもずっと想いを引きずっている。
「……会いたいなあ」
思わず呟く。だがいくら願ったところで、彼が自分とは違う道を進んでいる限り偶然でなければ会うことは出来ない。……まぁ、あったところで会話なんてものは生まれないんだろうけど。
海辺の流木に身を任せ、暫く音楽を流しながら風に吹かれる。流す曲は爽やかな、夏に聴きたくなるそんな曲。でもそれを歌うのは人工的で、機械的な声を持つ。私はそんな歌が大好きだ。意図して作られたこの声に、魅力を感じるのだ。でも、普通に人が歌う曲も好き。ただ綺麗なものが好きなだけだった。
「──あっ」
飛行機雲。空を眺めると数々の白い線が大きな雲に向かって伸びていて、まるで串団子のように見えた。
「お腹すいたなあ!帰ろっかな」
スマホを見ると、丁度五時半を過ぎたところだった。我が家では七時に家族揃って、ご飯を食べるのである。今日の夕御飯は何だろうな、なんて考えつつ立ち上がり、ふと思い出す。
「そういえば今日は海の日だったな」
砂浜を歩いて、あるものを探し出す。近場の海よりはここで見つけた方が、何だかストーリーが生まれるようでワクワクする。
「──ん?あっ、あったー!これこれ」
夕陽に照らして見てみるのは、碧色と蒼色の貝殻。光に照らすとより綺麗に見えるようだ。それを小瓶にしまいポシェットに入れて、自転車にまたがる。
「それじゃあ我が居るべき場所へ、いざ帰還!!」
自転車を走らせる。上り坂でちょっときつい。
それでも私は自分が満足するまで速く、もっと速くと加速させていく。自分にはまだ悩みなら沢山あるし、解決してもまた、悩むかもしれない。ならば今はとにかく心を切りかえて、あの海のように広い心の持ち主になって、広い視野をもって生きていくんだ。
「人生をーー!謳歌しろーーー!!」
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