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食事の時間
猫は人間を飼っている。
それは長い年月をかけて御先祖様から代々受け継がれてきた究極の作戦なのである。
昔々の猫たちは自分で獲物を捕まえないと食事にありつけなかった。そのため何日も空腹で過ごさざるを得ないことも多く、仕方なく寝て過ごすこともあったようだ。猫が好く寝るというのもここらへんに関係があるのかもしれない。
もちろん寝ているときに襲われてはたまらないから、外敵が来ないように穴ぐらの中に丸くなって仮眠していたわけだが、たまには蛇のような侵入者もあったことから、その睡眠は浅かったのはご存じのとおり。
猫の食事は買い物で手に入るような簡単なものではなく、全身全霊をかけた一発勝負が多かったようだ。草むらに潜んで息を殺して獲物にじわじわと接近し一撃で仕留める。
そのために、獲物に気づかれないように体臭や足音を消す習慣が付き、あのような綺麗好きで忍び足になった。
それでも、いつも獲物が手に入るわけでもなく、空振りになることの方が多かった。
穴ぐらの中で御先祖様は考えた。もっと楽に食事にありつきたいと。その自堕落な妄想は脈々と受け継がれ、やがて猫たちは人間と出会った(ここでやっとかい!?)
どうやらこいつらは敵意を持ってはいないようだと遠い御先祖様の子孫は思っただろう。そして猫たちは人間を好く観察するようになった。
こいつらは道具を使ってケモノやサカナを取るのが上手いみたいだ。少なくとも我々よりはずっと効率がよさそうだと。
時代がさらに下り、引き続いて人間を観察していた御先祖様は、やがて建物の中に我々を放ち「好きにネズミを取っていいぞ」と人間どもが大盤振る舞いするような状況に恵まれた。
同じ頃、我らの天敵である犬という奴らが人間に飼われ、エサをもらっている場面に我々は遭遇する。なんと浅ましく哀れな光景よと、御先祖様は思ったであろう。
時はまたまた下り、ついに我々の御先祖様は名案を思いついた。
人間は道具を使ってエサを取る。
犬はそのおこぼれをもらうだけ。
我々はとても賢い。
そうだ! 我々は人間を使役して食事の支度をさせれば好いのだ!
こうして現代の我々は、人間を飼うことによって毎日の食事の世話を未来永劫安定的にさせることに成功したのである。
しかし、しかしである!
いつも同じ味ばかりでは飽きるから、機を見計らって食事のメニューを変更するくらい頭を使え、人間よ。
手抜きでカラカラのばかりではなく、あのカンヅメとかいう、美味そうなサカナが入ったのもよこせ。ただでさえ気が利かない奴には、前足でカキカキして不満を教えてやっているのだから、ありがたく思うがよい。
誇り高き我々は、気に入らぬ食事など口にするものか。せっかく世話をさせてやってるのだから、しっかりとやれ。それが道具としての務めだぞ。
(おしまい)
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