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睡眠の時間
枕草子の昔から猫は好く寝る生き物である。否、もっと遥かに昔からずっと、我々は好く寝る生き物であった。
森の中の穴ぐらで生活していた時代、獲物にありつけず空腹をなんとかするには寝るのがいちばん手っ取り早い方策だったから、たいていの御先祖様はこれでもかというくらいしょっちゅう寝ていたのである。
その睡眠時間は断続的ではあるが、子猫や高齢猫の場合、起きている時間の方が少ないというのは世の中の常識である。もちろん寝ているだけでは獲物が手に入らないから狩りに出かけなければならない。でもたいていは失敗するから穴ぐらに戻って“ふて寝”である。体力もあまり消耗しないから。
たまには獲物にありつけることもある。満腹まではいかないまでも、けっこうな量を食べたら眠くなる。そんな時は、木の上の安全そうな場所で寝るにかぎる。太陽の日差しが心地好く風が涼やかな季節など最高に気持ちが好い。
だから現代の我々は家の中でどこが心地好く感じるかをすべて把握しており、季節によって移動しながら惰眠を貪るのである。洗濯し、乾し終わったばかりの服などとても気持ちが好い寝床になる。暑い時期はテーブルの上などひんやりして心地好い。
季節変化だけではなく一日のうちでも変化はある。体内時計が22時を過ぎたら、人間どもはとっととベッドに行き、我々のためのクッションと穴ぐらを用意すべし。お前たちの脇腹付近や又の間は我々がすっぽりとハマるのにちょうど好いのだ。
寒い時期は布団を開けろ。その中で我々が心地好く眠れるように。あと、お前たちが起きている時は、コタツとかいう箱のふたの開け締めをちゃんとやれよ。我々が出入りしやすいように。それと、ストーブとかファンヒーターとかいうやつの準備も忘れないように。
暑い時期はエアコンとかいうのはやめろ。あれは空気が冷たくなりすぎて風邪を引く。その代わりに冷たい床を用意しろ。それなら自分で乗り降りして体温調節ができる。
とにかく、我々がいつでもどこでも心地好く眠れるような場所を提供するのが、お前たち人間の義務だ。わかったら、雨の匂いがするから、とっとと洗濯物を取り入れろ。
で、早くそれを、ここに!
(おしまい)
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