鎖国の集落【サンゴー】

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 母を亡くして一人ぼっちになったぽんこつだが、周囲の人々に支えられながら更に成長し、成人となる十五歳を目前に身長は六尺ほどになっていた。 「にしてもここまで育つとはねぇ」  亡き母ぼっこに代わって母親役を引き受けたさば・おばけはぽんこつを見上げ感慨深げに言った。彼女にはわんぱくという名の息子がおり、同い年の二人は幼い頃から仲が良かった。わんぱくも四尺五寸と小人族にしては大柄で、村一番の力持ちと謳われるほどだ。 「俺の半分も飯食ってねぇのに不思議なもんだよな」  この村では力持ちがモテる。司祭が受け取る神のお告げによって幼少のうちに許嫁がいるのが一般的にも関わらず、わんぱくに思いを寄せる同世代の女の子はたくさんいた。司祭こそが絶対であるためわんぱくは許嫁ひとすじで、成人の儀式を迎えてすぐの婚姻を予定している。その実直さもモテ要因となっているのだが、本人にとってはどうでもいい案件のようである。  ぽんこつも例に漏れずお告げで決められている婚約者がいる。彼女あじ・へちゃこの家は村で唯一の食堂を営んでおり、村一番の器量良しと評判の看板娘である。幸い性格的な相性は良いほうなので、時間が合えば二人の時間を作ってプラトニックな交際を楽しんでいた。  ところがそれを不快に思う男がいた。彼さめ・がりべんは司祭の孫で、先代に息子がいないため次期司祭最有力候補だった。司祭という立場は【サンゴー】のトップで最たる権力を手にすることができるが、生涯独身であることが条件となっておりがりべんには許嫁が存在しない。  かと言って司祭の特権として愛人を持つことは可能で、歴代司祭の中には気に入った女性を侍らせてハーレムを作った者もいる。司祭に見初められた女性は、既婚未婚はおろか好き嫌いも関係なく愛人として忠義を尽くさなければならなかった。  がりべんはへちゃこを愛人に据えようと密かに目論んでいる。一方祖父であるてっぺきは愛人を持つこと無く司祭の職を全うしているために孫の企みを良しとしておらず、自身の代のうちにこれを撤廃しようと規律の改正を進めていた。  ところがてっぺきはそれを叶えること無く突然亡くなってしまう。特に持病があった訳でも流行り病があった訳でもなかったので、司祭絶対思考の住民たちもさすがに不思議がった。そんな雰囲気もどこ吹く風とがりべんは次期司祭の座にちゃっかり収まり、【サンゴー】の政治は彼の手て運営されることとなる。  初めのうちは祖父の政治を受け継いで村人たちの信頼を損なわないようにしていたが、慣れてくると徐々に方針を変えていった。彼は手始めに先代てっぺき氏が受け入れていた移民の処刑を敢行する。それに便乗してぽんこつも処刑の対象にしようとしたが、生まれも育ちも地元となる彼の処刑は規律として認められていなかった。 「ならば法を変えるまで、移民の子孫も対象にすればよい」  とほくそ笑んだが、愛しきへちゃこの祖父母も先代が受け入れた移民であったため、それを規律化すると彼女を含めたあじ家全員を処刑せねばならなくなる。がりべんは司祭という立場を利用してへちゃこを愛人に取り込むことに躍起になっていた。それを実現させるため、何としても許嫁であるぽんこつを引き離しておきたかった。
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