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「なるべく…連絡する」
「…うん」
「電話も………頑張る」
「……うん」
「大きな休みは帰ってくる。母ちゃんにも顔見せに帰ってこんと蹴るってゆわれとる」
「…うん」
男だらけの三兄弟の母親らしく、宏太の母親はとても快活な女性だ。
初めて会った時の歓迎ぶりを思い出し、まどかは笑った。
「帰ってきたらお前んとこで働く。やけんデートとかはあんましできん」
「……え」
「うん以外ゆうなってゆうたやろ」
「やって宏ちゃん、働くって」
「母ちゃんがいいよった。あんたのちっちゃい頃の夢はマスオさんやったって」
俯いた宏太が照れた声で小さく呟いた。
まどかの目からまた涙が溢れる。
「宏ちゃんのやりたいことは?したい仕事は?…ええの?」
「お前と離れて別れてまでやりたいことは考えても思いつかんかった。両親を助けたいってお前の気持ちが真剣なんもわかっとったし。そんなら俺もそれを手伝いたい。親父さんらにはもう許可もらっとる」
もう出ますよ、と運転手が声をかけてからバスに乗り込む。
「俺の夢もお前の夢も一緒に叶う。ええやろ」
宏太がにかっと笑いまどかの髪をくしゃと撫でた。
行くな、と短い言葉を言い宏太が立ち上がる。
見上げたまどかの嗚咽で震える唇に宏太の唇が僅かに触れた。
一瞬だけのキスに固まるまどかを置いて宏太はバスに乗り込んだ。
窓側のまどかが見える席に座ると自分の携帯を取り出し指を指す。
まどかの携帯がぽこんと音をたてた。
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