愛しい声

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ポッキーを咥えたまま宏太に渡すポッキーを探るまどか。 「はい」 「んぁ」 右手に新しいポッキー。 左手に囓りかけたポッキー。 宏太の手がまどかの細い手首を掴んだ。 「え」 「ごっそさん」 ポッキーを咥えたまま宏太は鞄を取り椅子から立ち上がった。 「ちょ、っと!なんでそっち食べるん!?うちの食べかけやん!」 あの柔らかそうな頬がまた膨れている。 宏太は手を伸ばし、今度は引っ込めなかった。 ぷに、と膨らんだ頬を摘み咥えたポッキーを囓る。 「そっちの方が美味そうやったし、美味い」 「ど、どれもおんなじやん」 「そうか?こっちのが美味いって」 いるか?と宏太がまた食べかけのポッキーをまどかに向ける。 「もろてあげてもええけど、その前に」 「んぁ?」 「……ちゃんとゆうてよ」 「何を」 まどかの小さな手が宏太の制服の裾を握った。 「ずっと、待っとったんやけん」 「何を」 裾がぐっと下に引っ張られた。 「…言うことあるやろ」 「………まどか」 顔を上げたまどかは夕陽のように真っ赤になっていた。 「ちっ、違うやん!もうズルいっ!」 制服の裾がぐいぐいと引っ張られる。 宏太がまた細い手首を掴みそれを止めた。 「ええか、うん以外言うなよ」 「……うん」 「…好き、やけん」 「…うん」 「俺と…つきおうて」 「……うん」 「食いかけのポッキー、他の誰にもやるなよ」 「うん」 ふふっと可愛い笑い声が宏太の腕の中に閉じ込められた。 「うん以外言わんといてね」 「…うん?」 「……大事にしてね」 「……うん」 重なる2人の伸びた影に、全校生徒の帰宅を知らせるチャイムが鳴った。
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