儚い仲直り

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儚い仲直り

今日はまどかの声を聞いていない。 卒業前の最後のイベント文化祭の準備中からまどかの様子がおかしくなった。 田舎のこの辺りには高校はひとつしかない。 もちろん大学はおろか、短大すらないため地元に残るのはほんの僅か。 卒業後宏太は地元への就職に強い公立の大学へ、まどかは地元に残り、家業の民宿の就職を決め離れることがわかっている。 もう少しで約束をしなくても会える、そんな毎日がなくなってしまう。一緒にいられる時間をお互いが口に出さずとも増やしたがり離れる未来への不安を打ち消そうとするかのようにぎこちなく触れ合った。 あと僅かな時間しか残されていない。それなのに喧嘩などしたくない。一日……一分一秒でも常にまどかの笑顔を思い浮かべられるように胸に焼き付けるようにまどかの声を姿を追い続けているのに。 「なんで、何に怒っとるん」 「………言わんでもわかるやろ」 「わからんけん聞きよんやろ、言えや」 「………」 まどかの目が瞬きをしたのと同時に水の粒をポトリと落とした。 また。 何回やらかすんだ。 男だらけの中で育った癖はふとした時に現れては一番大切な人を傷つけ泣かせてしまう。 「ごめん………ごめんな」 一時間に一本のバスは一度見送ってしまった。風を暖めてくれるお日様も帰り支度。冷えた風が二人の間を通り抜けないように、まどかの薄い肩をぎくしゃくとした動きで引き寄せた。 一瞬びくりと跳ねた肩をそのままにまどかは宏太の首に頭をつけた。 「見られるかもしれんよ……、ええの?」 「…かまん」 怒ったような宏太の声にふっと笑いが洩れた。子供のように拗ねているのは自分の方だったのに。 「怜ちゃんが…宏ちゃんを呼び捨てしよったやん。触りよったし…」 は? 宏太の驚きと戸惑いが触れた所から伝わり、顔を見られたくなくてまどかは宏太の腰に腕を回してさらに強く抱き着いた。
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