約束の未来へ

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約束の未来へ

少しずつ暖かくなってきた日差しに春を感じる。柔らかく吹く風に伸びた髪を靡かせるまどかの横顔を宏太はじっと見つめた。 死にものぐるいで勉強し、引っかかるように志望していた大学に合格し、追い立てられるように引っ越し先を決め、変わる日常を惜しむように兄弟喧嘩をしながら荷物を纏めた。 卒業式で悪友達との別れを惜しみながらも、きっとぼろぼろと泣くだろうと思っていたまどかを探し、目よりも先に耳が愛しい人の声を拾った。 泣いていると思っていたまどかは笑っていた。 左頬にだけできるえくぼ。泣いている友達の髪を撫でながらまどかは笑っていた。 受験が終わっても引っ越し先を探すための短い上京を繰り返し、決まれば引っ越しの買い出しにと慌ただしい宏太にまどかは身体を気遣う連絡だけを絶えずくれていた。 『宏ちゃん、ちゃんと食べよる?』 『宏ちゃん、まだ寒いんやけん足出して寝たらいかんよ』 『宏ちゃん、いっつも切り忘れる親指の爪、危ないけんちゃんと切ってね』 『宏ちゃん、もう花粉飛びよるんやって。マスクしとってね』 『宏ちゃん、風邪ひいとらん?』 必ず最初につけられる宏ちゃん。読む度に嬉しそうにはにかみながら呼ぶまどかが鮮やかに蘇る。 相変わらず何の愛想もない短い返事を送りながら胸に溢れる愛しさに改めてまどかへの思いを自覚する。 手放したくない、連れていきたい。 何度も考え、言いかけ、それ以上にダメだと言い聞かせた。
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