愛しい声

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日中とは違い生徒の声も疎らな夕方。 運動部の練習もどうやら終わったらしい。 教室の自分の席に座り机に寝そべるようにしながら携帯を弄っていた宏太の耳があの声を拾い肩がぴくりと揺れた。 がらりと開けられた後ろの扉に本当は振り返りたい気持ちを堪え気にしてない振りで携帯を見続ける。 「あれ、浅木まだおったの?」 「んぁ」 宏太の後ろの席に荷物を取りに来たまどかが忘れ物がないか確認しながらまた声をかける。 「またバス遅れたん?」 「…んぁ」 「次何時?」 「6時23分」 まどかが教室の丸時計を見て眉を下げた。 「まだ30分以上あるやん。それまでここで一人で待つん?戸塚は?」 「あいつは今日塾やけん先に帰った」 「一週間に一度はバス遅れるよね。いつも同じやのになんで?」 クスクスと笑う声に耳がぴくりと反応した。 ガタンと椅子を引く音に見ている振りをしていた携帯から顔を上げ振り返った。 「一緒に待ってあげる」 「ええよ、先帰れよ」 「なんでよ、浅木一人やと寂しいやん」 「子供か。暗くなるけんはよ帰れ」 「やだ」 「暗くなったら女は危ないやん、はよ帰れって」 「やだ」 拗ねたように膨らませるまどかの頬に触れたくて思わず伸びた手を宏太は慌てて握りしめ下ろした。 「あ、ポッキー貰ったんよ、食べる?」 「んぁ」 なんなんその返事、と笑う声。 不思議だ。 どれほど人がいたとしたって、この声を聞きのがすことはない。 「はい」 ポッキーが向けられる。 宏太が手を出すとまどかが声もなくううんと首を振った。 「手が汚れるやろ、あーん」 「あ、アホか。」 ぷいっと顔を背けた宏太にまどかがまた頬を膨らませる。 「いらんの?美味しいのに」 ポキと音がして宏太がまどかの方を向くと先っぽを囓りまどかがニコッと笑ってみせた。 「やっぱりいる?」 「………いる」
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