プロローグ

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プロローグ

 私は江花(えばな)蕾咲(らいさ)、高校二年生。  高校一年の一月、山あいにある私立高校に転入から五ヶ月が経った。自然に囲まれた中で、おだやかでやさしい(とき)を過ごしている。  毎日大きな口のショルダーバッグを肩にかけて登校する私。中にはスケッチブックをおさめてる。  絵を描いているわけでもないし、美術部に入ってるわけでもないけれど……  スケッチブックは私にとって人とコミュニケーションを取るための大切なツール。  それは決して手放すことはできない。  スケッチブックは声の代わりをしてくれるから……  今、私は声が出せない。  命と同じくらい大事に思っていた私の声。  校内放送でスピーカー越しに流れていた私の声。  あの時……あんな目に遭わなかったら、きっと声は失っていない。  今でもあの時のことがリフレインして、悔しさと後悔にさいなまれ眠れない夜を過ごす日がある。  でも、なによりも強く感じるものは、紛れもなく恐怖だ。  怖かった。あんな怖い思いはもう二度としたくない……  声を出したら、またいつああなるかわからない……  だから私は声が出せないんだ。  今のままでもいいじゃん。  この学校の子たちはみんなやさしいから、声が出なくたっていいんだよ。  ……そう自分に嘘をついて、気持ちを騙している。  本当は、声が出したいよ……
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