初恋

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初恋

次に会った時は、大橋さんが駅まで車で迎えに来てくれた。黒のSUV車がとてもカッコいい。「ちょっと遠出になるけど、観光名所までドライブしよう」と言われて、ドライブも好きな僕は、嬉しくてとびきりの笑顔で頷いた。 高原の綺麗な景色の中を走り、渓谷を見て滝を眺め、涼しい洞窟に入って鍾乳石を見た。 洞窟の中では、冷たい雫が僕のTシャツの背中に入ってきて、「ひゃあっ」と変な声を上げてしまい、大橋さんに笑われた。僕は照れ隠しで拗ねたふりをして、大橋さんの前をドンドンと進んで行く。すると、濡れた地面に足を滑らせて、大きく後ろにひっくり返りそうになった。 「わあっ!」 「あぶないっ」 叫び声を上げて目を閉じる。でも、待っていても衝撃が来なくて、固く閉じた目をそっと開けた。僕の目の前に、上から僕を覗き込む大橋さんの綺麗な顔があった。 「大丈夫?はぁ〜、びっくりした…。朔くん、俺を心配させすぎ…。君からひと時だって目が離せないよ…」 「あっ…ごっ、ごめんさない…っ。僕、注意が足りなくて、迷惑かけて…」 なんだか自分が情けなくなって、目に涙を浮かべて大橋さんから離れようとする。だけど逆に、大橋さんに強く抱きしめられてしまった。 「や…なに?大橋、さん?」 「ごめん、そうじゃないんだ…。あぁ〜…っ、もう正直に言うよ。朔くん、出会って間がないのにこんなことを言う俺を、出来れば嫌いにならないでいてくれると嬉しいんだけど…。俺さ、朔くんが好きだ。初めて会った時から、君のことばかり考えてる。ごめん…、男からこんなこと言われても困るよね…。もう、会ってももらえないかな…?」 大橋さんの言葉に、僕はポカンと口を開けて彼を見つめた。 大橋さんが、寂しそうな表情で僕から身体を離そうとする。僕は、慌てて大橋さんの腕を掴んで叫んでいた。 「あっ!待ってっ!こ、困ってなんかないっ!だって、僕も初めて会った時から大橋さんが気になってたっ。だから、お礼を口実にあなたに会ったんだ。ぼ、僕の方が、会いたくて…。ごめんなさい…」 「なんで謝るの?朔くん、ホントに?俺のこと気にしてくれてたの?俺は男だけど、大丈夫?」 もう一度僕を抱きしめて、大橋さんが耳元で甘く囁く。 「うん…大丈夫です。僕、たぶん男の人も恋愛対象なんです。だからと言って、今まで好きな人なんていなかった。こんなに気になったのは、大橋さんが初めてです…」 「朔くん…嬉しいよ。俺は…正直に言うと、男も女も付き合ったことがある。でも、四六時中、誰かのことで頭の中がいっぱいになるなんて、朔くんが初めてだよ。朔くん、君が好きだ。よかったら俺と付き合ってくれないか?」 「は、はいっ。僕からも、お願いします…っ」 「ああ〜ヤバい。すごく嬉しい。こんなに幸せなことないよ…」 そう言って、大橋さんがギュウギュウと僕を抱きしめてくる。ふいに顔を離して真剣に見つめてくるから、僕もまっすぐ見つめ返した。すると、大橋さんの綺麗な顔がゆっくりと近づいて、優しく唇を押し当てられる。 しばらくして、大橋さんの温かく柔らかい唇がそっと離れた。 「あ…」 思わず声を出して、名残惜しそうに大橋さんの唇を見ていると、弧を描いた唇からクスリと笑いが漏れた。 「朔くん、朔って呼んでいい?朔も俺のこと、星夜って呼んで」 僕の耳をくすぐりながら、大橋…星夜が嬉しそうに言う。 「はい…朔って呼んで下さい。でも、僕は呼び捨てなんて…」 「今日から恋人なんだから、呼んでほしい。お願い、朔。ほら、言って…」 「…う〜っ、せ…せ、いや…」 「うん、可愛い。あと敬語もやめようか?」 「ええっ!でもそれは…」 「敬語だと壁を感じる。俺は朔を甘やかしたい。だから、朔も遠慮なくドンドン甘えてほしい」 「うぅ〜…。じ、じゃあ星夜…お願い。も、もっかい…キスして…っ」 「…っ!」 僕が上目遣いでそう言った途端、後頭部に手を回されて、強く唇を塞がれた。 先ほどの優しいキスとは違い、深く激しく貪られる。唇のすき間から舌が差し込まれ、僕の舌が絡め取られる。僕は驚きながらも、真似をしてなんとか舌を伸ばした。その舌を強く吸われて、甘い声が鼻から漏れた。 「ふぁっ、ふぅ、んっ、んうっ、あ…」 ずいぶんと時間が経って、解放された頃には息も絶え絶えで、僕は荒い息を吐いて星夜にもたれた。 「も、はげし…、はぁ…」 「ごめん。朔があんまり可愛かったから…。朔…好きだよ」 「星夜、僕も好き」 僕たちはお互いを見つめ合って笑うと、しっかりと手を繋いで、洞窟の出口に向かって歩き出した。
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