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白田さんが登場人物をモチーフにしたキーホルダーをつけていた。もしかしてと思って確認をする。
「え? なんでわかったんですか?」
白田さんは強張った顔で口を開いた。
「ええと、昔からの友達がファンでね。映画も誘われて一緒に見たんだ。友達なんか、同じ映画を五回も観たんだって。あの彼、確かにかっこいいよね」
「はい、原作もアニメも映画も全部見ているんです。お友達と話が合いそうですね」
少しだけ表情を和らげて、白田さんは微笑んだ。
「でもさ、あのヒロインって必要?」
「はい?」
咄嗟にでた私の言葉に、白田さんの笑みが凍り付いた。
「映画を見た時に思ったのよね。あれってヒロインって言えるのかなって。一人で何もできないし、すぐに主人公を頼るし、みんなにちやほやされるし。見ていてイラっとしちゃった。あの子がいなくても、話は成立する。あの子は必要ないと思わない? そう思うでしょ? あの子が邪魔って気が付かないのは原作者くらいなんでしょうね」
つい、言ってしまった。しまったと思ったが時すでに遅し。
「ええと、黒井さん。原作、読んだことあります? 貸しましょうか? あのヒロインは絶対にいなくちゃいけない人です。少なくとも私は、彼女が大好きですよ」
白田さんは表情を強張らせて言った。
いつの間にか赤川さんが私の隣に立っていた。何か言いたげな顔で、腕組みをして私を見ている。
睨み付ける赤川さんの方を向いて、私はわざと笑顔を作った。
「もしかして赤川さんもあの漫画のファンなの? 意外だね」
穏やかな口調で聞けば、赤川さんは鋭い視線で私を睨んだ。
「だったらどうなんですか。人の趣味をとやかく言うのはやめたほうが良いですよ。人が何に対して不快と感じるかはその人の自由です。でも、それを同じように感じてって言う権利は無いです」
「ああ、ごめんごめん。軽い気持ちで言っちゃった。ファンの人にとっては許せない発言だよね。そう、怖い顔しないでよ」
私はできるだけ穏やかな口調で言った。昨夜も遅くまで、あのヒロインをどうやって改悪するかを考えていて、睡眠不足なのだ。
「黒井さんってみんなに優しいのに、アニメのキャラクターに厳しいなんて驚きました。所詮、二次元ですよ。それとも、こっちが素の黒井さんなんですか?」
赤川さんは嬉しそうな顔になった。いつも不機嫌そうな彼女からは想像もできない。面倒な事になる前にと、私は笑顔のまま言った。
「まさか、私はアニメなんて興味ないし。でも、誤解しないで、あなたたちの趣味を馬鹿にするつもりはないから。夢中になるものがあるのは良い事ことよね」
私は笑顔を張り付けたまま、自分の席に戻った。
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