① 私の嫌いな……。 白田side.

3/8
前へ
/13ページ
次へ
 赤川さんは誰とも群れない一匹狼タイプだ。長い黒髪で切れ長の目。少し近寄りがたい雰囲気がある。  赤川さんは黒井さんのことが嫌いなんだと思う。二人とも仕事はできるが、性格は正反対。そしておそらく、タバコを吸っているのは赤川さんだ。 「ああいう態度。どう思う? 信じられないよね」 「あの人がタバコ吸っているんでしょ」 「感じ悪いよね、黒井さんが色々やってくれているのに」  背後からひそひそと声が聞こえた。黒井さんと仲のいい女子社員たちは、赤川さんに冷ややかな視線を送っていた。彼女達のお喋りはなかなか終わらない。 「そんなこと言っちゃだめだよ。考え方は、人それぞれだしさ」  課長に一通り話し終えた黒井さんが席に戻って、宥めるように彼女たちに声をかけた。 「黒井さんって人が良すぎ。赤川さんがタバコ吸っているって、課長に言えばいいのに」 「でもね、赤川さんは仕事ができるよ。彼女がいないと、この会社は回らない。私、ちょっと意見を言い過ぎたかな。みんなも嫌な気持ちになったよね。ごめんね」  申し訳なさそうに手を合わせる黒井さんは、まるで仏像のようだった。 「そんなことないって。黒井さんはほんと、みんなの事ばかり考えすぎ」 「黒井さんこそが会社に必要な人材だよ。みんな助かっているんだから」  同僚たちの力強い言葉を、黒井さんは菩薩のような笑みで返していた。  みんなに笑いかける黒井さんを、赤川さんは冷ややかな目で睨んでいた。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加