① 私の嫌いな……。 白田side.

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 電車に揺られ重い足取りで家に帰る。ソファに直行し、スマホを開き画面をスクロールした。  家に帰ってからの楽しみは漫画の二次創作を扱うサイトの閲覧。もともと少年漫画が好きだった。好きなタイプは二次元のイケメン。職場で嫌な事があっても、彼ならきっとこうするだろうなと妄想して、一日を乗り切っていた。  そして時々、自分の妄想を二次創作サイトにアップしている。  帰り道にコンビニで買ったおにぎりとペットボトルをローテーブルに置き、お気に入りの話を読み返す。  読んでいるうちに、何か書いてみようという気になった。『モブ』を入れてみようか、あのサブキャラを登場させると面白いかも。いろいろと考えるが、なかなか文章が作れない。書きたいことは頭の中にはたくさんある。けれど、書けないのだ。  主人公がカフェにいる。それだけの描写が思いつかない。カフェの外観、メニュー、店員の雰囲気、一つ一つはイメージできるのに、いざ書こうと思うとすると文章にならなかった。たった一行書くのに膨大な時間を費やし、焦燥感にかられた。きっともう一歩、何かが足りないのだと思う。  子供の頃から本が好きだった。文章を書くことも得意で、小学生の頃、校内作文コンクールで表彰されたこともある。けれど所詮それだけだった。それ以上の何者にもなれなかった。  それでも、今の私にとって家に帰って文章を書く時間は楽しかった。  サイト内に『みかん』さんという人がいた。  『みかん』さんの話は読みやすく面白かった。原作の内容を少しだけアレンジして、なるほどと唸らせる話を書いている。『みかん』さんが新作を投稿すると、みんな待っていましたと言わんばかりにコメントをつけ『いいね』を押した。私もその一人だ。  どうしてこんなに文章が上手いのだろう。書きたいことが的確に、滑らかな文章で綴られている。文字の集合体なのに、読み進めると情景が目に浮かぶ。登場人物の行動や心情が頭の中でイメージできる。  私は『みかん』さんの文章が好きだった。
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