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数日後、珍しく残業をした帰り道。私を呼び止める声に振り向くと赤川さんが立っていた。
「ねぇ、もしかしてだけど。違っていたらゴメンね。白田さんってこのアニメ好きなの? これってレアものだよね」
「え?」
彼女の視線は私が鞄につけているキーホルダーに注がれていた。アニメのロゴもなく、シンプルなものだから誰にも気づかれないと思ってつけていた。それなのに気づかれるとは。正直に言うべきか、とぼけるべきか。
親戚の子供にもらったから仕方なく使っていると言おうか。戸惑っている私をよそに赤川さんは笑顔を向けた。
「私もこのアニメ好きなんだ。映画なんて公開中は毎週末、観に行ったよ。グッズもたくさん持っているんだ。今回主役になった彼、かっこいいよね。三次元には絶対にいない。同志を見つけて嬉しいな」
こんなに饒舌に話す赤川さんを初めて見た。いつもはクールに黙々と仕事をこなしている彼女の笑顔を、ぽかんと口を開けたまま見つめる。
「今度、一緒にご飯行かない? アニメの話で盛り上がろうよ」
戸惑う私をよそに赤川さんが笑う。
「え、ええと。うん、そうですね」つられて笑顔になった。
「もう、敬語もやめてよ。私たち同志じゃない」
「そう……だね」
二人でゴハンかぁ。微妙だなと思いつつも、自分が一番好きな事を誰かと分かち合いたいとも思った。
聞けば、赤川さんとは帰る方向も同じだった。二人でアニメのキャラについて、ああだこうだと盛り上がる。赤川さんは近寄りがたい人だと思っていたが話してみると、とても楽しい人だった。
そう言えば、と前から気になっていたもやもやを赤川さんにぶつけてみた。
「前から気になっていたんだけど。こんな話、いきなり言うのもアレなんだけど……」
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