② 私の嫌いな……。赤川side.

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② 私の嫌いな……。赤川side.

『共通の趣味を持つ友人』より『共通の敵を持つ友人』が欲しかった。  私は幼い頃から好きものが同じというだけでは、ただの仲間にしかなれなかった。けれども苦手なことが同じだと、心から打ち解けられた。嫌いな先生、嫌いな食べ物、嫌いな友達。 ただ、私が嫌いなものは大抵、みんなが好きなもの。甘いお菓子、ハンバーグ、優しい先生……だから私はいつも一人だった。  とても優しい先生が時折見せる、言う事を聞かない生徒に見せるイラついた顔。苦情を言う親の目で握りしめている拳。あんなにいい人ぶっているけれど、ほら、内心はムカついている。それと同時に、大人が見せるズルさのようなものが憎くて嫌いだった。   イイ人ぶっているけれど、内心は怒っているなんて、なんか腹が立つよねと友達に話すが、同意してくれる子はどこにもいなかった。 「当たり前だよ。先生だって人間なんだし」「あの先生を悪く言うなんて、赤川さんはおかしいよ」「先生は何も悪くないでしょ? どうして腹が立つの? 赤川さんって性格悪いね」  私はただのひねくれものらしい。結局、みんな先生が大好きで、同じ気持ちの人はどこにもいなかった。  この会社に入社したころ、どうしても苦手な人がいた。私の苦手な人、黒井さんは周囲の人達に好かれていた。彼女は表向きは『いい人』だった。けれど、会話の端々や態度にもやもやさせるものがあった。上手くは表現できないけれど、誰かとこのもやもやを分かち合いたかった。  確かに私は会社で煙草を吸っている。でも、ごみ箱に捨てたのは私じゃない。あの場ではっきり聞いてくれれば自分じゃないと言えたのに、弁解の機会も与えられず、私のもやもやはピークに達していた。  その数日後、あれは会社の帰り道。たまたま帰る方角が一緒になった白田さんと話した時だった。彼女が鞄につけていたキーホルダーが、好きなアニメのキャラクターだとわかり尋ねてみる。二次創作が好きで、好きなキャラクターも一緒だった。話の最中、白田さんは言いにくそうに尋ねてきた。 「前から気になっていたんだけど。こんな話、いきなり言うのもアレなんだけど……」  伺うような表情で白田さんは続けた。 「赤川さんて黒井さんのこと苦手でしょ?」 「え? ああ、うん。そうだね。あの人とは合わないんだよね」  嘘をついても仕方ない。私は思ったままを答える。すると白田さんは少し嬉しそうな顔になった。 「やっぱりそうなんだ。実は私も黒井さんのこと、ちょっと苦手なんだよね。良い人だと思うし、みんなに好かれているけれど、私はどうしてもあの親切心が嘘っぽく思えて。この前の飲み会も、本当は行きたくなかったんだ。赤川さんなら、この気持ちを分かってくれると思った」    ホッとした顔の白田さんを見て『これだ!』と思った。私が彼女を苦手な理由と同じ。みんなを気遣って、困っている人がいれば声をかけ、相談にも乗ってくれる。黒井さんの存在は、いつも私をもやもやさせた。  親切にはされているが、自分が正義だと言わんばかりの黒井さんの態度が苦手だと、白田さんは言った。  それだよ。私もそう思っていた。嫌いだと思うところがぴたりと合うと快感だった。自分の中にある『嫌い』の価値観が一致する仲間はやっぱり良い。何度か白田さんと話すうち、私のもやもやは解消されていった。  彼女ともっと分かち合いたい。嫌いなものについて。白田さんとなら友達になれそうな気がした。  白田さんはどうやら二次創作を投稿しているようだった。私も以前から同じサイトに投稿している。
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