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road
真っ暗闇だ。
暗闇に俺は立っている。
立っている感覚があるだけまだマシだと足を進める。
どこに?
どこでもない。
取り敢えず行かなければならないところがあるのは確かだ。
光も刺さない暗闇をあてもなく彷徨う。
「あいつは…なんでいない?」
同じく棺桶に入れられたアマリリスという少女人形がいたはずだ。
だが呼びかけても返事はない。
不安が急に込み上げてくる。
俺の目的はなんだ?
俺はなんのために此処に居るのだ?
彷徨いつつ、思考を止めないよう、手探りで進む。
手の感覚はあるが温度や触覚はあまり感じない。
しばらく進むと何かにぶつかった。
「な、なんだ?」
鼻のあたりを押さえて顔を上げるが目を凝らしても人型ということ以外見えない。
『君、面白いね。
一つ聞きたいことがあるのだけどいいかい?』
男とも女とも取れる声が頭上から降ってきた。
俺はいかなければならない場所がある。
無視をして足を進めようにも進まない。
『強情だなぁ。
まあ、そんなところもお姉さんに似て可愛い人だ。』
姉さんのことを知っているのかと虚空を睨みつける。
『おっと怖い怖い。
君に危害を加えようと出てきたわけじゃないんだ。
君は非常に不利な状況だから導いてあげようと思ってね。』
「不利?
導き手なんて必要ない。
俺には行かなければならない場所がある。」
『じゃあ、その場所の名前は?
君の目的は?君の相棒は?
なんでもいい、覚えていることを話してごらん?』
声の主に問いかけられたはいいが何も答えられない。
何も思い出せない。
姉がいたことすら忘れかけている。
何故なんだ。
憤りを感じて黙っていると声の主は哀れみを含んだ声色でいう。
『嗚呼、いけない。
ここは瘴気が濃すぎて人間の魂には負担がかかりすぎてしまうのだった。
大丈夫、導いてあげるから。
君の相棒は一足早く、リンボに着いたようだ。
さあ、手を握って。』
暗闇の中にぽぅっと光り輝く手が浮かび上がる。
怪しみつつも手を取り歩みを進める。
段々と記憶が戻ってくる。
そうだ、俺は姉さんの死の真実を知るためにあのおもちゃ屋に行って人形と契約させられた。
そして今からリンボへ行くのだと。
『どうやら思い出してきたようだね。
いい顔だ。
さて、出口だよ。』
声の主の言う通り、顔を上げると前方に光が差し込んでいるのが見えた。
「…ありがとう。」
素直にお礼を言えば声の主は笑って返す。
『ふふふ、どういたしまして、君が勝ち上がってくることを楽しみにしているよ。
じゃあ、またね。』
全てを取り戻した瞬間、手を繋いでいた感覚がなくなる。
聞きたいことが山ほどあるのに今消えてもらっては困る。
俺は声を荒げて静止する。
「まて、待ってくれ。
お前は姉さんの何を知っている!」
声の主は優しく諭すように言う。
『いずれ分かる事だよ。
それまではまだ伝えられない。
なんでも知っているけど何にも知らないボクだから。
ごめんね。』
声の主は謝罪の言葉を口にし、完全に消える。
いずれ分かる事だと?
俺は全てを今すぐにでも知りたいと言うのに。
だが、これ以上ここにとどまる事も無駄だと判断し、光の方へと急ぐ。
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