remember

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姉は出戻ってから寝たきりとなった。 幼かった俺は何故姉が寝たきりになっているのかわからずしょっちゅう、彼女の部屋を訪ねては、感染するかもしれないからと怒られていたっけ。 原因不明の奇病だったらしい。 甲斐甲斐しく両親は世話をする中、俺は姉さんの話し相手となった。 奇妙な姿の姉を唯一恐れず、根気よく遊びに行ったことを話した。 野山の野イチゴを取りに行った話。 近所の野良猫をみんなで育てている話。 お隣さんに赤ちゃんが生まれて友人のパーシーと遊べなくなった話。 姉は一生懸命に表情の乏しい顔を頷かせて最後まで話を聞いてくれた。 だが少しだけ、ほんの少しだけ人形のようになっていく彼女を拒絶していた。 陶磁器の様に君のない肌。 手足を動かすとキィキィと耳障りな音が響く。 嗚呼、これでは人形じゃないか!と叫びたくなる時もあった。 どんどん衰弱し、人形と化していく姉に耐えられず遂には医者も両親も匙を投げた。  あとは死を待つだけとなった姉が最後の日、俺の名を呼んだ。 「ロビン、ロビン。」 「何だい、姉さん。」 ガラス玉の瞳を差し向けて何かを訴える。 「よくお聞き、おもちゃ屋に入ってはいけない。 決してよ決して、入らないで…やく、そく…よ。」 まるでゼンマイの切れた人形の様に彼女は永遠の眠りについた。  すぐ様、医者を呼んで脈を取ったが手遅れだった。両親は最後まで側にいた俺を責めるでもなく、姉の亡骸を見て嘆きもせず人間ではない肢体をどうすべきかを話し合っていた。 仮にもそれでも人の親かと怒りが湧いた。 だが、感情に流されることなく黙っている事にした。  子供の俺が何を言っても単なる戯言に過ぎないと聞き流されるのがオチである。 今思えば両親にとってそうしなければ耐えられなかったのだ。 姉が死んだという事実に。数日後、つつがなく葬式は執り行われた。 不思議と泣きはしなかった。 ヨーロッパでは珍しく、俺の住む田舎は墓地が足りないという事で火葬され遺骨の一部を埋葬する形だった。 轟々と燃える窯の中に姉の死体が入るのをこの目で見たのが最後の記憶。
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