remember

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だが、目の前の人形は寸分違わず姉だった。 髪色も目も手首の火傷の跡も目元にホクロがあるのも。 全てが全て姉の特徴と一致している。 俺は絶望に打ちひしがれて膝をついた。 「何故、これがここにあるのだ!」 姉とそっくりな人形に憤りをぶつけ叫ぶ。 ニタニタとさも全てが手中だと言うような顔で男は俺の耳元で囁く。 「それは運命ですとも坊ちゃん。 貴方のお姉様は挑戦者として我々、悪魔との賭博に負けた。 それがドールズテイカーの掟なのです。 負けた肢体は人形となり我々の財団へと秘密裏に回収され次なる挑戦者の元へと導きます。」 「ドールズテイカーってなんだ?挑戦者って…。」 戸惑いながら聞くと老紳士は更に邪悪な笑みを浮かべて答えた。 「申し遅れました。我々は悪魔、かの有名なソロモン王の72柱の一つ、序列53番のカイムでございます。」 はぁ?悪魔?何で悪魔なんかがおもちゃ屋をしているんだ。  怒りに拳を震わせていると「おっと、落ち着いてください坊ちゃん。」 長い鉤爪のような爪が頬を撫でてぞっと背中に悪寒が走る。 こいつは人間じゃない!と嫌な予感がピタリと当たる。 恐怖と混乱に足がすくむ。 「お分かりいただいたようで何よりです。 つきましては、ドールズテイカーについてご説明いたしましょう。 我々悪魔は優れた人間を選別し、グリモアの使い手を育成するためにある催しを開催することにしました。」 ごくり、生唾を飲んで俺は震える声で聞き返す。 参加するかしないかはまだわからない。 おもちゃ屋の窓はまだ宵闇に包まれている。 夜が明ける前に何とか断って帰らなければ。 だがこいつらの目的も気になる。 「お前らの目的は何だ?」 「全てはソロモン王の御心のままに。 その選別として依り代に悪魔のなりそこないを宿して使役し、仮のグリモアを授けて人間同士の果し合いをさせるのです! ルールは簡単、人形同士をグリモアで操り、戦わせて再起不能になるまで壊す! 負ければ術者の体の一部が人形化、勝てば何でも王が願いを聞く。」 素敵でしょう!素敵でしょう!と飛び跳ねて老紳士は狂気に打ち震えている。 つまりは、人形化したとはいえ死体を壊し 会わせろということか? わかりたくない、わからない。  何故、人間が犠牲にならければならないのか。 悶々と考えていると悪魔は急に冷めた目で俺を見下ろし口開く。 「この素晴らしさがわからないのですねぇ。お気の毒なことです。 嗚呼、此処で一つ。あなた方、人間側にも依り代の人形になるデメリットの他にメリットももちろんありますよ。」 口車に乗るなと頭の中の警鐘が再びなる。 こんなヘンテコな空間にいたら頭がおかしくなりそうだ!そう叫んで立ち上がる。  急いで店を出ようとドアまで震える足で這いずり回るがすぐに悪魔に追いつかれた。 「無駄ですよ坊ちゃん。 戸は外側しか開けられない仕組みとなっております。 ええ、ここのおもちゃ屋は入ったら最後なのですよ。」 悪魔の囁きとはまさにこのことだと俺は膝をついておもちゃ屋の扉にすがりついた。  はてさて、彼は何処で罪を犯したのだろう?  姉の言いつけを守らなかったこと?  心のどこかで、姉を疎んでしまったこと? 姉を忘れられなかったこと? 「うそだぁぁぁぁぁぁぁ。」 俺の絶望の叫びは店中にこだまする。 さも愉快そうに悪魔が笑う。 涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった情けない顔。 情けない足取りで人形にすがる。 姉の風貌の人形は何も語らない。 それもそのはずだ。 姉であって姉ではないのだから死者は何も語らない。 これが最初の絶望。 だがこれ以上の仕打ちが待ち構えていることを俺はまだ知らない。 【To be continued】
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