イケメンは俺に惚れているらしい

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通い始めてずいぶん経った。名前を知ってからどんどん仲を縮めていって俺はアッキーとあだ名で呼ぶ仲になった。向こうはサッカー界のイケメン、片や最近注目されてきたフツメン。これでも雑誌に載ったときは少し天狗になってた時期もあった。これから益々上手くなって近いうちに有名になって女の子にキャーキャー言われる日が来ると思っていたが、近くにイケメンでサッカーのできる人がいるとそれも先のことに思える。この間少し練習に付き合ってもらった。技術的には俺と大して変わらない。何が俺と違うんだろうと思うとやっぱり、経験の差か試合勘がいいんだろうなと思う。そして、なんでこんなに上手い人がバイトをしているのか。いくつかクラブから声がかかってるのは雑誌を読めば分かった。そんな将来が決定したようなものなら、バイトなんてせずに練習漬けになればいいのにと言ったことがある。でも、話を聞くと違う野望があるみたいだった。なんでもプロになる前にどうしてもドイツにいるサッカーの友達に会いに行きたいみたいだ。そのためにお金を貯めているらしい。だからサッカー以外の空き時間はここに来てできる時間で働く。体力がないから体力作りも兼ねているようで、学校から走って往復しているらしい。自由にシフトが組めるのはバイトはアッキーだけで、店長が軽く誘ったら真に受けたアッキーがバイトに来るようになったということだ。店長はそれまではアッキーのことはよく知らなかったらしいけれど、真面目に仕事するし覚えがはやいし、笑顔が懐っこいっていうのもあると思うのだけどメロメロになったらしくたまにカウンターの中から微笑ましく見ている。女の子だけじゃなくて男の店長にまで好かれるってすごいよなと思う。 そんなアッキーに感心する日々が続いたある日、急な雨が降った冬の日だった。 「あ、ちょっとアッキー!!」 雨の中全力で走る人がいると思ったら、アッキーだった。思わず追いかけて必死に呼べばくるりと振り返って「碧いじゃん、帰り?」と何食わぬ顔をしていた。髪は雨に濡れてボサボサなのにイケメンだからなのか知らないけどかっこいい。水も滴るいい男とはこのことか!神様はずるいと思う。 「ほら、そこで服脱いでそのままお風呂入っちゃって。洗ってあるから溜めちゃっていいよ。」 「おーありがとう。お邪魔しまーす。」 あのまま走って帰るみたいだったアッキーを捕まえて自宅に招いた。冬の雨の中、家路までの2㎞を走って帰るって風邪ひくだろう。いままで誰が体調管理をしてきたんだろう。濡れたアッキーの服を洗濯機に突っ込んで新しいパンツと俺の服を置いておく。そして、部屋に暖房を入れて風呂から上がったアッキーが湯冷めしないように万全な環境を作って待っていた。 「碧ありがとう…つかこれデカイ、嫌味っぽい。」 「はっははは!俺の方が10㎝はおっきいからね!可愛いよアッキー!」 「可愛いとかふざけんなし。パンツもでけぇし、ズボンの紐結ばないと落ちる。」 「まあまあまあ、いいじゃん!」 腕も余った袖でもこもこ、ズボンも余った裾がずるずる。これが女の子だったりしたら彼シャツとかって盛り上がるんだろうな。ムッとしているアッキーがふと思いついたかの様に袖を伸ばして口元に持ってくる。俺の近くに寄って下から見上げる形になった。 「…碧~俺おなか減ったー。」 「ぶっ!」 思わず吹き出してしまった。あのアッキーがこんなことをしてくるなんて想像しなかった。あの女の子に人気で、クールな人がこんなことをするなんて。いたずらっぽい性格を考えればなくはないのかな。 「アッキーそんな技、持ってたの?いいよ、っふふなんか作るね。」 そう答えれば、自分でぶりっこしておいて下向いて照れてる。ホントに素で心から可愛いとか思ってしまうあたり俺もどうかしてるな。 「じゃーその間、俺はゲームしていい?」 テレビの隣にあったゲーム機を見つけてキラキラした目で問うてくるその姿は本当に年上と思えない子供っぽい表情だった。きっと店長もこれにやられたんだろうな。イケメンで男らしくて、しっかりしていてるのにイタズラが好きだったり子供っぽいところがあったり。これじゃあ世の中の女の子が夢中になる気持ちもわかりますよ。アッキーは学校やチームだとどうなんだろうな。
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