イケメンは俺に惚れているらしい

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「お口に合うでしょうか。」 「あーまあまあ美味いかな。」 「ホントに?やったぜ!」 「調子のんな。」 豚キムチと味噌汁とサラダっていう割と自分にしては豪華に作った料理。人に食べさせることは初めてで、緊張した。でも美味いと言ってくれて安堵するとともに嬉しくなってガッツポーズすると、向かい合った机の下から足蹴りが脛にヒットした。ご飯を食べ終えて、一緒にゲームをする。たまにするだけのゲームの俺は持ち主なのに負けてばかりだった。アッキーはゲームも上手いらしい。そして、夜中になっても雨は止まず。そのままアッキーは泊まっていった。朝、目が覚めるとアッキーが寝ていた筈の俺のベッドは抜け殻だった。乾燥機にかけたアッキーの服の代わりに、アッキーに貸した俺の服が洗濯機に入っていた。 「自由な人だな…。」 どうせなら起こしてくれてもいいのに。置手紙もなく出て行ってしまうのもアッキーなのかなと思う。付き合うにつれてアッキーがどんな人なのかつかめてきた。雑誌で見るアッキーはただのイケメンで何かっこつけてんだよ。と出会う前は思う時があった。でも、実際どんな人なのかわかってくるとそれはアッキーの強がりで、自分を大きく見せようとかっこつけているのがかわいく思えた。知っていく度に良さが見えてくる。悪いところもまたギャップがあって人間らしくて好きだと思う。完璧すぎず魅力的な人間だからいろんな人を引き付けるんだろうなと思うんだ。 「はい、ハヤシライス。」 「どうも。」 「昨日はありがとうな。助かった。今日も飯食いにいっていい?」 毎朝店の開店準備を手伝いに行っているから朝早くに出て行ったらしい。そして、今日も俺の家に来た。今度は食材を買い出しして来てくれた。次の日も次の日も、アッキーはほぼ毎日やってきては俺の作ったご飯を食べてゲームしてくつろいで翌朝にはさっさと出て行ってしまう。そんな生活にも慣れてきて、アッキーはゲーム。俺は勉強というスタイルも出来てきた。前は家で勉強は集中できなかったけど、アッキーがいることでなんだか集中できる。喫茶店と同じような感じだからだろうか。でも、「喉かわいた。」とか「風呂入る。」とか「泊まってくから。」なんて言うから俺が甲斐甲斐しく世話を焼く。これじゃどっちが年上だかわからない。 「アッキーも一人暮らしなのは知ってるけど、俺のとこ毎日来て彼女とかいないの?」 「いねぇよ。碧もいないだろ?」 「そーですけどー。でも、アッキーもいないんだ。」 「この間まではいたけど、振られた。」 「え!」 ゲーム画面を見つめたままさらりと言われた言葉に衝撃を受ける。やっぱり彼女いたんだとか、え!別れたのとか思うと同時に振ったじゃなくて振られた?!何故?という疑問が流れてくる。ちらりと表紙を伺った目が合うと俺の気持ちを感じ取ったのか、アッキーはつらつらと言葉を続ける。 「なんだよ。振られたけど、別にそんなんじゃないから。割と好きだった奴だけど、あんまり大切にしてやれなかったし。向こうも先が無いって分かったんだろうな。」 「この、贅沢者め。」 「俺なんかと付き合う女は大変だよ。かわいそう。」 「そうなの?」 「そうそう。彼女より友達優先しちゃうから。」 「……。」 友達優先しちゃうのはわかる。けど、ん?この間別れたって言ったよな。 「つかぬことをお聞きしますが、別れたのは具体的にいつでしょうか。」 思わず敬語になってしまう。これはまさかするとまさかだ。嫌な予感がする。 「んー先週?」 やっぱりー!これは絶対に俺を優先してたから彼女に会う時間が少なくなったんだ。自惚れでも何でもないはずだ。ここ2、3か月ほとんどアッキーは俺の家に来ている。休日でさえ、練習が終わると俺の家に来ていてアッキーの洋服もだいぶ置くようになったし歯ブラシも一緒に並んでる始末だし、これは俺のせいだ。 「あの、なんかごめんなさい。」 「は?なんで碧が謝るんだよ。俺が勝手に来てるだけだし。」 「そうなんだけど、もっと早く気付いてたら別れることとかなかったんじゃないかなって……。」 「碧は俺が来て迷惑?」 ゲーム画面から目を離して俺をまっすぐに見つめる。すごくムッとした顔をしながらも何故か雰囲気は悲しそうで、いつものアッキーらしくない。 「いや、楽しいけど。俺はアッキー好きだし。」 「…ならいいんだよ。」 アッキーは一言呟いてから、顔を埋めるように近くに置いてあったクッションにダイブした。顔はよく見えないけどさっきまでへの字だった口元が少しニヤッとしていて、もしかして俺が迷惑じゃないって言ったのが嬉しかったのかなと思う。彼女と別れたって言うのに贅沢な人だ。ただ分かるのは、多分アッキーは照れ屋だということ。こんな些細なことで恥ずかしがって顔を隠す。雑誌で見る爽やかクールなイケメンアッキーは何処の人だろうか。俺の今目の前に居るのは、ニヤケ顔を恥ずかしがって隠すような可愛い人だ。
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