第一章:インサイダー・パーティー -緊迫の合コン-

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第一章:インサイダー・パーティー -緊迫の合コン-

 そして、翌週の日曜日。  伊勢兄弟と多賀の待ち合わせ場所は、合コン会場となるホテルの向かいのマクドナルドである。指定したのは多賀だ。 「……なんか、これから行くところと随分格差があるね」  カジュアルとはいえ礼服姿の伊勢兄弟は、居心地があまり良くなさそうである。  多賀も当然礼服で、周りからの視線がすさまじいが、意に介する様子は全くない。 「僕、緊張して緊張して」 「今コーラなんか飲むと、後でしんどくなるぞ」 「いいんですよぉ、どうせ僕は合コンなんか無理ですからぁ」 「え、もしかして酔ってる?」 「酔ってません!」  精神が参っているだけである。 「ただ飯を食べに行くと思えばいいじゃないか。な?」 「でも、仕事は仕事ですよう」 「仕事と言っても、女の子と話して、龍平のスマホ取るだけだぞ。  いや、無理そうなら、取らなくたっていい。様子見だけでもいいんだ」 「スマホはいいんですよう、女の子が無理なんです」  生真面目な多賀が、女子みたいな嘆き方をするのは、どこか面白みがある。 「そっちかよ!」 「……女子という生き物が苦手なのはわかったけど、時間ないぞ。  仕事だと思って諦めろ」  ついさっきまで、ただ飯などと言っていた癖に変わり身が随分と早いが、正論ではある。多賀は、中身の残ったコーラのカップを持って、渋々席を立った。 「ま、実際店に入ったら乗り気になるもんさ」  章は楽観的に言い、裕を携えて、多賀をお目当てのレストランに引きずり込んだ。  章の見立ては当たっていた。  慣れない高級ホテルの洒落たレストランに、はじめ戸惑っている多賀だったが、幹事だと名乗った男と顔をあわせ、思っていたより優しくされ、可愛がられると、ついさっきまで悪かった顔色がみるみるうちに戻った。 「ご飯楽しみです!」  さっきまでの鬱状態はどこへ行ったのか。 「……落ち着いたならいい。例の次男が来たら裕が言うから、マークしておけよ」  章は袖を整えながら、合コン幹事である先輩の元へ去った。  裕は、用意された椅子の一つに勝手に座り、辺りを見渡している。  多賀もならって、隣の椅子におそるおそるかける。  暗めの照明の下、合コン参加者らしき男女がポツポツと集まっていた。  座席の規模から考えるに、男女七対七くらいになりそうだ。  男側の年収と年齢を考えるとかなり多く、どちらかというと、豪華な食事会という方が近い。 「あ、もう龍平来てんじゃん」  眼鏡の下で目を細めていた裕が、入り口近くの若い男をそっと指差した。 「あれが、廣田龍平。覚えられそう?」  ゆるくかかったパーマ、繊細に整えられた髪、カジュアルに崩したグレーのジャケットを羽織り、微笑みを絶やさない。小洒落た男、というのが第一印象である。  廣田は二人の女性と談笑したのち、スマホをしばらく触っていたが、すぐにジャケットの内ポケットにしまった。 「覚えました」  睨みつけるように目を細め、口元に不敵な笑みを浮かべて多賀は頷いた。  普段の人畜無害そうな表情は何処へやら、急に大人びて見える。  ジャケットの内ポケット。厳重そうに見せかけて、スリにとっては、外見ほど難易度は高くない。  スっては返し、またスっては返したとしても、多賀の腕前で気付かれることなどありえない。 多賀の初仕事は、ずいぶん幸先が良さそうに見えた。 それが裏切られたのは、合コンが始まって一時間後、情報課の面々が動き出して三十分後のことである。
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