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始まりの夜
こんな田舎、2度と帰らない。そう心に決めていたのに、私は戻ってきてしまった。県職員として。
「久しぶりだね。一ノ瀬さん」
100人いる同期会になじめずにぼんやりしていたものだから、声をかけられて思わずびくりとしてしまった。声の主は、高校3年生の時のクラスメイトの金森龍彦だ。周りの同期たちはべろべろに酔っているというのに、顔色1つ変わっていない。
「そうだね」
県知事の息子であり、学年でモテる男ナンバーワンだった彼と私に高校時代の接点なんてあるはずもない。それなのに、妙に馴れ馴れしい。昔は陰気だとか気持ち悪いだとか散々けなしていたくせになんなんだ。コンタクトでメイクをし、膝丈の落ち着いた紺色のワンピースを着ているだけで、こんなにも態度が違うのか。私の腸は煮えくり返っていた。
「ねえ。ゴールデンウィークにさ、3年1組のクラス会やるんだけど、一ノ瀬さんも来ない?」
「う~ん…私は遠慮しておくよ」
根暗でガリ勉だった私に友達なんていない。行くだけ無駄というものだ。何を考えているのだろう。この男は。でも、
「担任の深山(みやま)先生も来るんだけどな」
そう言われたら……
「行く!!」
断れない。だって、先生は私が初めて好きになった男の人だから。
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