運命の日

1/1
2177人が本棚に入れています
本棚に追加
/202ページ

運命の日

「よし」  クラスメイトたちはさておき、先生に胸を張って会えるようにとびっきりのおしゃれをしてアパートを出る。いつもは仕事の邪魔にならないように後ろでひとつにまとめている髪をほどき、マスカラやアイシャドウも雑誌を見ながら丁寧にやった。白地に花柄のワンピースを着て、ベージュのカーディガンを羽織る。仕上げに赤い小さな鞄を持って、それなりにヒールのある靴を履けば、完璧だ。それでもやっぱり怖いという気持ちと先生に会いたいという気持ちが同居してへんな気持ちになる。田舎にありがちな大衆居酒屋に着くころには、まだそんなに暑くないはずなのに、私の顔は走った後のように火照り、心臓はどくどくと脈打っていた。 「こんばんは」  でも、着いたら腹を決めるしかない。私は勇気を出してクラスメイト達のいる一室に足を踏み入れた。 「一ノ瀬さん?」  私が足を踏み入れた途端に、その場にいたクラスメイトたちがざわつく。ゴールデンウィークで帰省している人が多いからか、30人中半分くらいが集まっている。そのクラスメイトたち全員の視線が痛いくらい刺さっていた。 「そ、そうだけど……」  ああ……やっぱり来なきゃよかったかなあ。大学デビューして、明るくなって、県の美術館の学芸員に採用されたとはいえ、昔の私を知っている人のところに顔を出すというのは、やっぱりおこがましかっただろうか。泣きそうになったその時、 「おお。危うく遅刻するところだった」  背後から懐かしい声がする。恐る恐る振り向くと、担任だった深山ひなた先生がくっきりとした目鼻顔立ちでにこにこと優しく微笑んでいた。 「先生!! 遅い!!」 「始めるところだったよ」  クラスのきゃぴきゃぴした女子たちが先生を見るなり、いっせいに文句を言う。でも、 「まあまあ。そう言うな。開始時刻ぴったりだっただろ?」  先生が笑うと女子たちが黙り込む。その隙に私もひっそりと女子たちがいる隅っこの席に移動したのだった。とりあえず、助かった……のかな?
/202ページ

最初のコメントを投稿しよう!