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シェフ
シェフは男性とばかり思い込んでいた私は地味に動揺していた。先生にこんなにかわいい幼なじみがいたなんて。
「こんにちは。ひなたの幼なじみの椎木みのりです。よろしくね」
私なんか足元にも及ばないおしとやかでしなやかな振る舞いに圧倒される。
「こんにちは……一ノ瀬心春といいます……」
「よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」
「私のことはみのりさんでいいよ。私も心春ちゃんって呼ぶから」
「は、はい……」
なんで先生はこんな美人より私を選んだんだろう。せっかくのデートだというのに、ひねくれた私がそう言って邪魔をする。
「まったく……あとでちゃんと紹介しようと思っていたのに、急に出てくるからびっくりしただろうが」
呆気に取られて黙りこんだ私の代わりに先生が答えてくれた。
「ああ。ごめん、ごめん。ひなたの彼女に早く会ってみたくて」
にこりと笑って、みのりさんが大きな瞳で私を見つめる。
「そんなに見つめられると……照れるんですけど……」
耐えきれなくなってそっぽを向く。すると、
「ついにひなたにも彼女ができたか」
みのりさんが先生を畳み掛けるようにいじる。
「失礼だな。その言い方。そういうみのりも独り身だろ?」
「でも、彼氏はいるよ。遠距離だけど」
「まだ続いていたのか」
「まだ……って何よ」
みのりさんはにこやかにそう言うと、先生の頬を引っ張って遊び始めた。か、彼女の前で!! ボディタッチ……だと!? いったい何様!?
「いてっ!!やめろよ!!」
「ひなたが面白いからやめない」
会話もテンポがよくて、先生もなんだか楽しそうだ。本当にただの幼なじみなのかと疑ってしまうくらいに。
その時、
「お食事をお持ちしました」
さっきの男性スタッフが大きなお盆に色とりどりの食事がのせて現れた。
「おお。おいしそうだな」
先生が目線をみのりさんからお昼ご飯に移す。4人がけの席のはずなのに、2人分で机はいっぱいだ。
「でしょ? 今月は、私が考えたメニューだからね」
みのりさんが自慢げに語る。野菜がふんだんに使われているのもあって、見た目からして、豪華でおいしそうだ。
「じゃあ、私は仕事に戻るよ。またいっぱい話そうね。心春ちゃん」
「は、はい……」
みのりさんは言いたい放題言うと、足取り軽やかに去っていった。まるで嵐のような人である。
「ごめんな。やかましくて」
みのりさんが去ると、先生が私に深々と謝った。
「……いえ。大丈夫です」
先生にはああいう人の方がお似合いだと私は思ったけど、それは胸の中にしまっておくことにした。
「とりあえず食べるか」
「はい」
今日は楽しい日なんだから。私なんかじゃ釣り合わないという私、今は引っ込んでいて。
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