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2次会
先生とは、美術部を引退するまで毎日、毎日話した。大半は、何を話していたのかよく覚えていないようなたわいないことだった。すごく楽しかった。ただ、先生と私は、あくまでも教師と生徒の関係だ。それ以上、踏み込まないと私は心を決めて、美術部を引退した。引退する頃には、異性として好きだなと思うこともあったけど、他人に迷惑をかけるのは趣味じゃない。だから、連絡先も聞かなかった。そして、そのまま先生とは高校卒業して以来、会うことはなかった。
「一ノ瀬さんが2次会、来てくれるなんて嬉しいな。そういうイメージじゃなかったからさ」
先生が2次会に行くというから、ついてきてみたけど、私の隣に座ったのは残念ながら、大嫌いな金森だった。先生は少し離れたところで他の男子たちと楽しそうに話している。
「1人暮らしをしているから、帰る時間、自由になったんだ」
やかましい女子たちは、リーダー格の女が実家暮らしで早く帰らないといけないと言うから、それに伴うように1次会で帰っていったが、1人暮らしの私はまだ帰る気はなかった。だって、先生とまだ話してないし。
「そういうことか。確かに。厳しそうだもんね。県議会議員の1人娘の門限って」
金森が演技じみた同情の目で私を見る。私にはわかるぞ。嘘くさいって。
「そうそう。大学で1人暮らししてみたら、自由で心地いいからさ。実家に戻るの、嫌になっちゃって」
高校時代、塾で遅くなると事前に言っていても、1時間で50件近くメールを送り付ける両親のもとから私はどうしても離れたかった。両親から逃れるため、全力で勉強して県外の大学に行き、悠々自適に過ごしてきたというわけだ。まあ、一応、両親の思惑通り、地元には帰ってきてやったからよしとしてもらおう。
「お酒、強いの?」
金森はウイスキーらしきグラスを手に持っているが、今日も顔色は変わっていない。
「そんなに強くはないけど、飲み会の雰囲気は好きだから」
大学時代の飲み会は好きだったが、ここでの飲み会は好きじゃない。緊張して全然酔えないから。
「そっかぁ。じゃあ、ガンガン飲まなきゃ!! 乾杯!!」
先生とは相変わらず話せないし……もう。こうなったらやけだ!!
「乾杯!!」
私も手渡されたウイスキーをぐいっと飲み干す。隣が金森だろうが、もうこの際、関係ない。とにかく飲んで酔ってやる!! そういうことにした。
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